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第80話 ネガティブ勇者、光の剣を手にする

「ハッキリしたことだけ整理しておきましょう。まず私の記録、受け継がれた歴史はもう当てにならないわ。何が正してくて何が間違っているのか。何が欠けているのか、もう私にも分からない」 「……うん」 「そして、レインズのこと。彼が勇者の証たる存在、宝剣だということ」 「はい」  レインズは頷く。  今分かっているのはこの二つ。  次にやらねばならないのは、レインズを宝剣として扱うにはどうするのか。  精霊はまだ宝剣の力は目覚めていないと言っていた。この力を呼び起こすにはナイの意思が鍵になる。  しかし、その方法が分からない。 「鍵、か……ナイがレインズを宝剣として認めるとか?」 「僕が、レイを?」 「レインズが自身の武器であると、認識する。目の前の彼が、貴方の光。二人で一つであること」 「……急には、難しいよ……」  ナイは目を伏せた。  確かにレインズの立ち振る舞いや心は剣のようだ。しかし、それとこれとは話が別だ。  どうすれば人間を剣だと認識できる。 「武器だと思う必要はないんじゃないか?」  ずっと黙っていたアインが口を開いた。  彼自身も主人のことを考えていた。ずっと一緒に過ごしてきたのだから、ナイ以上に戸惑っていただろう。 「物として見るんじゃなく、共に戦う仲間として思えばいい。確かに剣は武器だ。でも、己を守る相棒でもある」 「相棒……」 「要は考え方だ。難しく捉えることはない。俺にとってレインズ様はレインズ様だ。そのお体が宝剣であっても、その事実は変わらない。俺の守るべき主君だ」 「アイン……ありがとう」  その言葉に、レインズは嬉しそうに笑みを浮かべた。  確かにその通りかもしれない。  ナイは改めて考え直した。今まで武器なんてものを扱うことがなかったから、その考えに至らなかった。だがアインの言う通り、武器はただの物ではなく自分を守るもの。  そう思えば、レインズは何度も自分を守ってくれた。救い出してくれた。  まさに闇を切り裂く光の剣に相応しい存在だった。  自分の命を預けられるか否か。その選択を出来るかどうかが大事なのだ。  だったら、答えは一つ。 「僕はレイとなら、一緒に戦える……」 「ナイ……!」  誰かを信用するなんて、出来なかった。  心から受け入れるなんて出来るはずがなかった。  でも、幾度となく悪夢から救い出してくれたのはこの二人。  助けられてばかりなのに、その相手を信用しないなんて。  信頼しないなんて、そんな勝手な話はないだろう。 「僕に必要なのは、きっと、宝剣じゃないんだ。一緒に戦ってくれる、人……僕のことを、勇者にしてくれる人……」 「ええ、我らが勇者。私は、貴方と共に希望を掴みたい。貴方一人に戦わせたりはしない」 「うん。ありがとう、レイ……僕を導く、光……」  互いに手を伸ばし、握りしめて握手した。  その瞬間、二人の間に強い光が放たれて地面に魔法陣が展開した。  目を開けていられないほどの光。  全てを包み込む、真白の輝き。  気付くと、ナイの手に握られていたのはレインズの手ではなかった。 「……白い、剣……」  穢れなき白い刀身。  美しき、宝剣。  

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