80 / 100
第80話 ネガティブ勇者、光の剣を手にする
「ハッキリしたことだけ整理しておきましょう。まず私の記録、受け継がれた歴史はもう当てにならないわ。何が正してくて何が間違っているのか。何が欠けているのか、もう私にも分からない」
「……うん」
「そして、レインズのこと。彼が勇者の証たる存在、宝剣だということ」
「はい」
レインズは頷く。
今分かっているのはこの二つ。
次にやらねばならないのは、レインズを宝剣として扱うにはどうするのか。
精霊はまだ宝剣の力は目覚めていないと言っていた。この力を呼び起こすにはナイの意思が鍵になる。
しかし、その方法が分からない。
「鍵、か……ナイがレインズを宝剣として認めるとか?」
「僕が、レイを?」
「レインズが自身の武器であると、認識する。目の前の彼が、貴方の光。二人で一つであること」
「……急には、難しいよ……」
ナイは目を伏せた。
確かにレインズの立ち振る舞いや心は剣のようだ。しかし、それとこれとは話が別だ。
どうすれば人間を剣だと認識できる。
「武器だと思う必要はないんじゃないか?」
ずっと黙っていたアインが口を開いた。
彼自身も主人のことを考えていた。ずっと一緒に過ごしてきたのだから、ナイ以上に戸惑っていただろう。
「物として見るんじゃなく、共に戦う仲間として思えばいい。確かに剣は武器だ。でも、己を守る相棒でもある」
「相棒……」
「要は考え方だ。難しく捉えることはない。俺にとってレインズ様はレインズ様だ。そのお体が宝剣であっても、その事実は変わらない。俺の守るべき主君だ」
「アイン……ありがとう」
その言葉に、レインズは嬉しそうに笑みを浮かべた。
確かにその通りかもしれない。
ナイは改めて考え直した。今まで武器なんてものを扱うことがなかったから、その考えに至らなかった。だがアインの言う通り、武器はただの物ではなく自分を守るもの。
そう思えば、レインズは何度も自分を守ってくれた。救い出してくれた。
まさに闇を切り裂く光の剣に相応しい存在だった。
自分の命を預けられるか否か。その選択を出来るかどうかが大事なのだ。
だったら、答えは一つ。
「僕はレイとなら、一緒に戦える……」
「ナイ……!」
誰かを信用するなんて、出来なかった。
心から受け入れるなんて出来るはずがなかった。
でも、幾度となく悪夢から救い出してくれたのはこの二人。
助けられてばかりなのに、その相手を信用しないなんて。
信頼しないなんて、そんな勝手な話はないだろう。
「僕に必要なのは、きっと、宝剣じゃないんだ。一緒に戦ってくれる、人……僕のことを、勇者にしてくれる人……」
「ええ、我らが勇者。私は、貴方と共に希望を掴みたい。貴方一人に戦わせたりはしない」
「うん。ありがとう、レイ……僕を導く、光……」
互いに手を伸ばし、握りしめて握手した。
その瞬間、二人の間に強い光が放たれて地面に魔法陣が展開した。
目を開けていられないほどの光。
全てを包み込む、真白の輝き。
気付くと、ナイの手に握られていたのはレインズの手ではなかった。
「……白い、剣……」
穢れなき白い刀身。
美しき、宝剣。
ともだちにシェアしよう!