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第84話 ネガティブ勇者、決意を固める。
食事を終え、ナイとアインは外でレインズを待った。
魔王城は以前にも行ったリーディ鉱山よりもさらに北、豪雪地帯にあるという。
常に吹雪いているその場所は元々は真っ白で幻想的な地だったが、魔王城が現れてから黒く染まってしまったらしい。
黒く染まった雪は侵入者を阻み、踏み入れた者に死を与えるという。
「……そんな場所、行って大丈夫なの?」
「そんな場所に行けるのは勇者の結界だけだろ」
「あー、そっか」
「正直、俺が行っても足手まといになるかもしれない。邪魔になったら置いて行けよ」
「え」
いきなりそんなことを言われると思わず、一瞬息が止まるほど驚いた。
確かにこれから行くのは、それほど危険な場所。
魔王の元に必ず辿り着かなくてはいけないのは、勇者であるナイと宝剣のレインズ。アインにもしものことがあれば、置いていく覚悟もしなければいけない。
「もちろん、そんなことにならないよう俺も最善を尽くす。全力でお前とレインズ様のフォローをする」
「アイン……」
「もしもの話だ。お前は俺のことなんか気にせず前だけ向いてろ。後ろを向くな」
「で、でも」
「背中を預けてくれ。決して、離れないから」
「……うん」
前を見据えて言う、力強い言葉。
アインはいつも迷いがない。どんな時でも、自信を持って相手に自分の言葉を告げてくれる。
だから、とても頼もしい。
「アインは強いから、心配してない、よ」
「俺は別に強くはない。強く見せてるだけだ」
「それでも、僕からすれば十分凄いよ。僕は、アインみたいに強くなろうとすらしなかった」
「……ただの強がりだ。凄くはない」
「それも、強がりのひとつ?」
「お前も言うようになったな」
二人はクスクスと笑い合った。
こんな風にアインと話せるなんて、初めの頃は思わなかったとナイは心の中で思った。
お互いに最初の印象は良くなかった。だけど今は、心を許し合える仲になっている。
「この世界に来てから魔王の姿形も見てないけど……どんなヤツなんだろう」
「残念ながら俺にも分からない。ただ魔王は世界中に魔物を溢れさせて、人を襲わせている。自分は隠れてコソコソと、ふざけやがって…」
「そうなんだ……なんか、僕自身は魔王のこと何も知らないから、だから怖いとか、そういう気持ちが湧かないのかな」
「魔王城を見ればすぐにそんな気持ちも吹っ飛ぶぞ」
死の蔓延る豪雪の地。
ナイの結界もどこまで通じるか分かったものじゃない。
無事に帰れる保証もない。
それでも、この世界での未来を生きるために、戦わなきゃいけない。
勝たなきゃいけない。
負ける訳にはいかない。
ナイはこの世界で気付いてしまった。
護りたいもの。失いたくないもの。
魔王を倒したらレインズは婚約する。王子として、国王になるため、この国の未来を守り続けるために。
そしてアインもその隣で彼を守り続けるだろう。
そんな彼らを、ナイも守っていきたい。
これはそのための、勇者の力。
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