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兆が一

 長年悩んできた疑問がついに解消された瞬間だった。だけど。それが解消されたところで、世間でいう『普通』の枠から外れてしまったことはそのままだった。  それに、世の中には結構ゲイの人間は存在するとは思うが、出会うとなるとなかなか簡単ではない。しかもその中で自分に合う相手など、見つけるのはとても困難な気がした。  もちろん、そういった出会い系のサイトとか、出会いの場所とかに赴けば別なのだろうが。慎弥はなんとなくその気が起きなかった。そういった場は、その場限りの関係や同時に複数の関係を持つことも多い。ちゃんとした相手もいるにはいるだろうが、見つけられる保証はないし。慎弥は関係を持つならちゃんとしたい、と昔気質の考えを持っていた(店長の件は別として)。  それに、お堅い地方公務員の慎弥には、自分がゲイだということが公になるのは色々と面倒なことになるだろうなということも感じていた。なので、そういったところに出入りして明るみになるようなリスクは、なるべく侵したくなかった。  そんな事情もあって、このまま独り身で歳を取るのも仕方がないことかもな、と思っている。  万が一の億が一。いや、兆が一。目の前に自分の好みの男が現れて、相手もゲイであり、それでもって相思相愛にでもなれたらそれは本当に幸運なことだなとは思うけど。  そこまで考えて、ふと、ある男の顔が浮かんだ。

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