1 / 1
特殊体質の俺と普通の彼氏の話
馬鹿な話を聞いてくれ。
俺は涙が宝石になる体質だ。
うん今引いたろ、でも本当だ。
彼氏の家であくびをした。小粒のダイヤが床に落ちた。
当然聞かれるよな。説明するよな。
そうするとさ、彼氏の目の色が変わるわけだ。
俺は思ったよ。
ああ、まただな、って。
『したら、そいつはタチウオやったわけですわ』
『なんでやねん!』
「ギャッハハ、やば、おもろ……! え、なんで笑ろてへんの!?」
「その前になんだよこの状況」
俺は改めて周りを見渡した。
見渡すまでもないワンルームで、横並びになってこいつの秘蔵のDVDを、そう、やらしいやつじゃなくてお笑いを、1時間ほど見せつけられている。
スンッとしてる俺を差し置いて、彼氏のほうは『そろそろ酸欠起こすな』ってくらい、身体を折って笑い転げている。
幸い先にDVDの方が終わったので、彼氏はティッシュをとって盛大に顔を拭いた。
「あー、アッカン、俺のほうが涙枯れてきたわ」
「…………あー、そういう狙いね。お前変わってるわ」
「なんでやねん」
彼氏は床に積まれたケースの山をひょいっとまたいで、棚の前で次の一本を吟味しはじめた。
俺はため息をついてその後ろ頭を眺める。
あるだろ。泣かせる方法なんていくらでも。
「おっしゃコレいこ。めっちゃ笑うで」
「なぁ腹減った」
彼氏はぴたっと動きを止めて、ホンマや、と呟いた。
「米とハムしかないで。あと野菜」
「チャーハンは?」
「最高やん」
二人で数歩先のキッチンに向かう。
でも本当、こいつのおすすめは全然わかんねーな。笑いのツボの差かな。
振り返った彼氏がニヤッと笑って、
「タマネギ切る?」
と言ってきた。
「切らねーわ」
と、背中を強めに叩いておいた。
(終)
ともだちにシェアしよう!