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☆第2ルクス☆『星座サミット』

「支度はできたか、リゲル」 「はいっ! ベテルギウス様っ!」  オレは白いキトンの上に藍色(キュアノス)のヒマティオンを(まと)い正装し、キリッと背を正してベテルギウス様を見上げた。  ご高齢なのにシャンと背筋の伸びたイケ爺様なベテルギウス様は白髪の長い髪と白いお髭がダンディだ。  オレにオリオン座の座長を継承した後も星座サミットの実行委員長なのでこうして一緒に神殿に赴いてくれるので心強い。 「リゲル、しっかりな」 「おやつにナッツパイ(バクラヴァ)を焼いて待っていますからね」 「く~れぐ~れも、さそり座に気をつけてよね!」 「目を合わせるな。口も聞くなよ」 「そうだぞ! 毒持ってっからなアイツ」  兄さんたちは口々にそう言うと「あ――! 心配だァァ――ッ!!」と息もピッタリに一斉にそう叫ぶとオレにハグした。 「まーったく、過保護じゃな。今やリゲルは立派なオリオン座の座長。それにこの(わし)がついとる。向こうにはシリウスとプロキオンもおる。心配はいらん」  ベテルギウス様が呆れたようにそう言うとミンタカ兄さんがコテンと首を傾げた。 「アレ? そういえばリゲル。シリウスが一緒にサミット行こうって言ってなかったっけ。待たなくていいの?」  オレはブンブンと首を横に振る。 「ベテルギウス様と先に行ったって伝えて」  シリウス(アイツ)と一緒だと目立つからイヤだ。  無駄にファンに睨まれるし。  ベテルギウス様は実行委員なので一般の集合時間より早いけどオレは一緒がいい。 「うむ。では留守を頼んだぞ」  ベテルギウス様は持っていたお洒落な杖でコツンと床をついた。 「やっぱり心配だから俺たちも一緒に行く!」  アルニタク兄さんが落ち着かない様子で身を乗り出した。 「神殿には黄道十二星座以外は一等星しか入れんのじゃ。毎度言わせるでない。行くぞ、リゲル」 「はいっ! ベテルギウス様っ」  オレたちは床からピカァーと円柱に立ち昇る光に包まれて神殿へと運ばれる。  百年に一度開かれる転移門(ピリ)。  神殿には選ばれた星座たちが集まる。  黄道十二星座は主メンバー。  そこに全天二十一の一等星の中から八星が選ばれ、計二十星座の代表が百年に一度、一堂に会するのが『星座サミット』だ。  百八十度裏側の本来ならば絶対に出逢うこともない、夏の星座『さそり座』と冬の星座『オリオン座』が、その時ばかりは顔を合わせてしまうことになる。  アイツはさそり座。  十二星座だから自宮も与えられているし、サミットの常連だから今回も絶対にいる。  オレたちのオリオン座は冬代表だから大抵選ばれる。  ベテルギウス様はサミットの実行委員長だから尚更だ。 (やった。百年ぶりに逢える!)  ……じゃなくてぇー! (違う、違う! キライキライ。さそり座なんか大キラーイ!)  オレは神殿についてからもついついキョロキョロとアイツの姿を探してしまう。  まだ現れない。  ……ってことは、あの扉から入って来るはず。  来るなら来いさそり座め!  オレは負けない! 「リゲル! 百年ぶり! 元気だった?」 「あ、……ああ。久しぶり」  ふいにこと座のベガに声をかけられて拍子抜けする。 「さっきからどうしたの? 怖い顔して扉睨みつけて?」 「べ、別になんでもねー……」  不思議そうに問われて調子が悪くてふいっと顔を背けたその途端……。 「俺を探してたんだろ」  ふいに背後から馴れ馴れしくオレの肩を掴む大きな手。  そして、艶のある低音ボイス。 「なあ、リゲル」  ビックリして振り仰ぐと、夢にまで見た憎き宿敵の切れ長の眼がオレを見下ろしていた。 (――――アンタレス!)  長い黒髪が艶やかに靡いて、眉間を通った長い前髪から覗く灼紅の眼がまっすぐにオレの心臓を射る。  恐ろしく整った美貌。  笑みの形に弧を描いた口元にオレは息を呑んだ。 (な、な、なんで。今まで話しかけられたことなんかなかったのに。ああああ、アンタレスが、オレの、オレの肩掴んで……!?) 『さそり座には気をつけろよ!』  兄さんたちの言葉が脳内で警鐘を鳴らした。  オレはハッと我に戻り、アンタレスから顔を逸らすなりバッと身を翻した。 「待て」  信じられないことに、そのまま猛ダッシュしようとしたオレの手首がいとも容易く掴まれている。 「リゲル」 (な、な、な、なに。名前……、呼ばれた)  オレは振り向けないまま目を見開き固まる。  掴まれた手首が熱い。  ドキンドキンと心臓が口から出そうでオレは目を回しそうになる。 (なんで……。動けない) 『アイツ毒持ってっからな!』  そうだ。  アルニタク兄さんが言ってた。  オレは今さそりの毒にやられてるんだ。  そして、このままオリオン様のように全身に毒が回って死んでしまうんだ。 ―――――――――――― 試し読みページはここまでです。 続きはAmazon Kindle電子書籍でご覧いただけます。 読み放題対象です。 コミカライズの続きが読める原作小説です。 『かわいいキミを素直にさせる方法』 『ニコドロップ文庫』←などで検索! Twitter https://twitter.com/000025NikO 個人サイト http://id47.fm-p.jp/327/kirameki2525/ 皆様の応援のおかげで電子書籍化致しました! 本当にありがとうございました。 これからも何卒よろしくお願いします。 2021.7.20 ニコ ※続編や、Kindle無料キャンペーンの情報などもコチラにて配信してまいります。 《お気に入り》よろしくお願いします!

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