1 / 66

第1話

 昔々とある世界で——  いや、昔でもねーし世界はひとつだ。  現在、世界の生物(クリーチャー)はそれぞれの種族別に独立した国を持って暮らしている。  エルフの国、ドワーフの国、妖怪の国、等々。  しかし、一国だけ例外がある。  海と山、盆地や平野などを擁する、自然豊かな『ウォルズ王国』である。  ウォルズ王国は『種族の坩堝(るつぼ)』と呼ばれている。  多種多様、という言葉が追いつかないほどの数の種族が揃っているが、みな極めてフレンドリーでピースフルに、平和に生活しているのだ。  なぜか?  それは、ウォルズの大地が『波動』というものを発しており、これが生命的な琴線に触れた者は、もうウォルズから離れられないほどウォルズLOVEになってしまうのだ。  オラ自分の国に戻りたくねぇだ、オラあんな国いやだ〜ウォルズさ行くだ〜といった具合に移住してくる。そして、ウォルズを守るため争いを起こさないのだ。いい話だろ?  さて、本題に入ろう。  つい先ほど『ピースフル』と思わず口走ってしまったが、差別というものはどこにせも発生するものであって、クリーチャーにも『ランク』が存在する。  今、王都ラリーハリー近くの森の奥、名もない農村で長身の吸血鬼が畑仕事をしている。周囲には赤鬼やゴブリン、堕天使などの姿も見える。  この吸血鬼、名はセイジュ。  こいつは『レイヤー』だ。  そう、コスプレイヤー。  ウォルズ王国のクリーチャーで最下層に位置するのが『人間』である。  そしてセイジュは人間なのだ。  もちろん大抵のクリーチャーは無害だが、印象は悪いし、タチの悪いのに当たると怪我をすることもある。  よって人間・セイジュ少年は、 『吸血鬼コス』  をして生活しているのである。  この物語は、人間・セイジュが、その優しさ故に発生した人生の大波乱を描くものだ。よかったらお付き合い願いたい。  ちなみに、なぜウォルズ王国において『人間』が最下層種族かというと、  1.なんか弱い  2.すぐ死ぬ  3.突出した特殊能力がない  4.見た目が地味  くっだらねっ!! 特に4! ウォルズの国民アホなんじゃね?!

ともだちにシェアしよう!