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第8話

 ふてぶてしい態度で言ったのは、プラチナブロンドの髪に真っ白な美しい肌、スカイブルーの瞳、まばたきしたらバサバサと音がしそうな長い睫毛、セクシーさと卑猥さのギリギリを攻める赤い唇、その他諸々の美しすぎる容姿の男性だった。 「な、なんて美しい……て、天使……?」  思わずセイジュが口走ると、件のキング・オブ・ビューティーは眉間にしわを寄せた。 「天使だと? 無礼にもほどがあるぞ」 「え、違うんですか? え、え、っていうかさっきの鳩はどこに……」 「アレは俺だ。おまえは吸血鬼のコスプレをしていたが、俺は純白の鳩のコスプレをしていたようなものだ」  あれはもはやコスプレではなく『なりきり』に近いだろう。 「で、ではあなたは魔法使いですか。友人にも魔法を使える奴がいます。しかしなぜあんな危険な生物に化けていたんです?」  セイジュ、多分気づいてないのおまえだけだぞ。  話の流れ的にさ、そろそろ気づけよ。 「……おまえ、俺の顔を知らんというのか」  その鋭い目つきに、セイジュは射抜かれる。 ——もしかして有名な魔術師さんなのかな、俺そういうの疎いから失礼なこと言って怒らせちゃったかな? でもそれで魔法で鳩とかにされたら人間よりマズい……  おいセイジュ、いい加減にしろ。おまえ天然が過ぎるぞ。 「おい人間。俺は今から名を名乗る。だがその前におまえの名を聞く」 「セ、セイジュです!」 「セイジュか。いいだろう。  俺の名前は、クロイゼン・フォン・カンパネラ・ラリーハリー・ウォルズ。聞き覚えは?」 「ラ、ラリーハリーは王都の名でウォルズは我が国の……え?」  ようやく何かを察したセイジュは、本能が察知したのか、一歩後ずさった。 「あーあーもうコレだから父上に最近の報道プレスの手腕がダメだと言っておるのだ! いくら森の村人とはいえ自分の国の王子の顔と名前すら知らんとは、なんと恥さらしな!」 ——国の、王子??  セイジュは軽い目眩を覚える。  冗談だ、これは夢だ、俺は寝てるんだきっと! 「冗談でも夢でもないぞ、それにおまえは覚醒している」 「え?!」 「マインド・リーディング、魔法の基礎中の基礎だ。おまえの心を読んだ」 「何ですかそれ! 酷いじゃないですか! アンフェアだ!!」  クロイゼン王子は、セイジュの両肩に手を置き、藁でできたソファに座るよう言った。 「いいか、人間セイジュ」  言うがいなや、クロイゼンはセイジュの素で裂けている唇にキスをした。  セイジュはすぐに脳内がピンク色になってしまった。  これまで、触れられてしまったら人間だとバレる、と思い、キスはおろか他のクリーチャーとの身体的接触は極力避けてきたのだ。  しかし——  き、気持ち、いい……のかな?  なんか……ベロが入ってきてる……なんだろこれ……あ、おいしい……あ、あ、下が、あそこが—— 「おい、セイジュ。おまえ童貞こじらせずぎだぞ」  クロイゼンが半ば呆れ顔で言うのも仕方ない。セイジュは王子との接吻だけでおイきあそばれてしまったのだから。 「決めた」  セイジュが熱病にかかったように茫洋としていると、クロイゼンがこう言った。 「おまえを(めと)る」

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