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第27話
宿の部屋にはどう見ても一人分のベッドしかない。ここでセイランがベッドを占領している限り、ルピナスが休めないことは一目瞭然だった。それでも退かないルピナスを見つめながら、セイランは頭を回す。そして数秒後、ハッとした顔になったセイランは訝し気にルピナスを見上げた。
「まさか、いっしょに寝るとか言わないよな?」
「……それも悪くないね」
「なんだよそれ……ともかく、おれはかえ、る……っぅ……」
正面のルピナスを押し退けながらセイランは立ち上がろうと床に下ろした両足に体重を乗せる。が、そうしようとした瞬間、足が体重を支えきれず体がぐらりと傾いた。それを見透かしていたルピナスは、ちょうどセイランの体が傾いてきた位置で体を支え、ベッドの方に体を返す。そのお陰で、セイランはペタンと元の場所に腰を下ろすことになる。
「あ、あれ?」
「帰れるなら別に帰ってもらって構わないけど、ボクは無理だと思うなぁ」
「っ、」
思い通りに体が動かないことにセイランが戸惑う間もなく、ルピナスはセイランの肩を押してベッドに押し倒し、自分はその上に馬乗りになるようにベッドに乗り上げる。二人分の体重に、ベッドが軋んだ。すぐさまルピナスを押し返そうとセイランは手足を動かすが、体勢不利以上に、妙なくらいに自分の体に力が入らないせいでルピナスの体は微動だにしない。
その間もルピナスはセイランを押さえ付けたまま、体を倒してセイランに身を重ねる。下ろした頭はセイランの耳元に向かい舌先を細く立てるとつつ、と輪郭線をなぞるように耳の下から顎へのラインを伝っていく。その熱に、ぞくぞくとした感覚が背筋を抜けていく。
「ひ、ぅっ、あんた、さっき自分でシないって……!」
「何もしない、とは言ってないよ? 大丈夫大丈夫、ちょっとだけだから……ね?」
「ね、って言われても……ぁっ、……!」
明らかに目の色が変わったルピナスは、シーツに広がるセイランの柔らかい赤糸を優しく撫でながら耳たぶを甘噛みする。ふ、と熱い吐息を耳に吹きかけられ、セイランは一気に頬を染めると逃げるように顔を逸らした。それで首が伸びたのをいいことに、次はまた舌先がうなじをくすぐっていく。
他人にそんなところを舐められるなんて経験が少ないどころか考えたこともなかったセイランは時折くすぐったさで体をびくと跳ねさせてしまい、その都度恥ずかしそうに身を丸める。この程度で感じているとは思われたくなくて、必死で声を押し殺すと、わざとかと思うような唾液の音が耳を掠めた。
その間にルピナスの手は下着をたくし上げ、素肌を空気に晒していく。ここに運んできた際にルピナスに脱がされたのだろうか、セイランはもともと下着のみの状態でベッドに寝かされていた。そのためルピナスが暴くのも当然容易いもので、ルピナスは眼下に至る所に古い傷跡を持つ体躯を広げる。
「セイランって、ここ、感じる?」
「ぁっ、え……?」
「ま、これから試せばいいか」
ルピナスが指の腹でふにふにと押していたのは、胸部の先。乳首だった。感じるか、なんて聞かれても。自分は男なのだから、感じるはずがない。というのがセイランの見解だった。戸惑うセイランをよそに、ルピナスは体を少し下に動かし、舌先をまだ主張すらしていない桃色に触れさせた。くるくると円を描くように舌を動かし、先を唇ではんで持ち上げる。もう片方は指の腹ではじくようにしてなだらかな胸に突起を描こうとしていた。
「……ぅ、っ、」
そんなことされてもくすぐったいだけだ、と思っていた。だが、セイランに襲うのは、微かではあるけれど、確かな快感だった。それを示すように、最初は形のなかったそこにぷくりと突起が浮かび上がっていく。それをつまんだり、指の腹で転がしたり、舌で遊ばれたりしていると、時折急所を掠めるような快感が腰を揺らしていた。
ルピナスが胸の周りに何度も口づけるリップ音が耳まで犯していく。それは自分がルピナスのものになっている気分にさせていく。ルピナスに触れられているときはいつもそうだった。五感から体の芯まで、犯されているような。そんな感覚が体を簡単に包んでいく。
「せーいらん?」
「な、んだ?」
「ふふふ、下、勃ってるよ?」
「っ! ぁ……、」
ルピナスの膝が、股を下から押し上げるようにしてその存在を示してくる。くすくす笑うルピナスに反して、淡い快楽に溶けかけていたセイランは顔に熱を宿し、羞恥に染めていく。
「……どうしたい?」
「おれは……、おれは、別に……」
「ホントに?」
あれだけ乗り気じゃなかった矢先、今さら欲しいなんて言えなかった。こんなにしたのはルピナスなのだから、責任を取れと言えばそれでいいのだが、セイランにはその発想が浮かばなかった。
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