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第56話

 お互いに向かい合って、ルピナスの肩にセイランは手を突く。それからルピナスの上で膝立ちになり、斜め上からセイランは視線を合わせた。数秒間、静かに見つめあっていたが、先に欲に耐えかねたセイランがそっと腰を下ろし、ルピナスの上で後孔に性器を擦り当てた。素直な挿れて欲しいという意思表示。それに従って、ルピナスはセイランに向けて性器を上向かせる。 「ん、んっ……、あ、ぅ……」  セイランはそこに向かって腰を落とし、求めていた熱を体に取り込んでいく。この熱が、質量が、欲しくて仕方なかった。セイランは体を倒してルピナスに抱きついて甘えるようにしつつ、腰を前後に動かして快楽も楽しんでいた。 「ふふふ……、セイラン、もしかしてボクのこと意識してる?」 「へ……、ぁ、そ、それは、ぁッ!」  今までの自分からすると考えられないことをしている自覚はセイランにもあった。こんなに相手に気を許した状態でセックスなんてしたことがない。まして、自ら抱きついたのなんて、思い返せば初めてのことだった。それもこれも、全部相手がルピナスだから。 「〜〜ッ! するに決まってるだろ! だって、だって、おれ……!」 「分かってるよ。……セイランに教えてあげるよ、好きな人とするセックスは、とっても気持ちいいってこと」  どうして今日はこんなに恥ずかしいのか。こんなにドキドキして落ち着かないのか。それは、セイランがずっと好きでもないやつに足を開いてきたから。好意を持つことそのものがルピナスが初めてで、その好意を自覚したのは昨日のこと。初めての好きな相手との行為、セイランは無意識にルピナスのことを強く意識してしまっていた。それに拍車をかけたのは術の影響。術者なだけでなく、好きな相手でもあるルピナスと、早く繋がりたかった。  ルピナスはセイランの腰を抱くと、グッと持ち上げ先ほど指が触れなかった奥を押し上げる。犯される快楽。自分は今、間違いなく抱かれている、ルピナスのものになっているという承認欲まで満たされていく。 「あ、あっ、ぅ、きもち、い……っ!」  揺れる動きに合わせて、水面がゆらゆら揺れている。ちゃぷちゃぷと水が跳ねて音を立てるのがやたらと卑猥に聞こえて仕方ない。ルピナスは確かにセイランが感じる場所を貫いてくれるが、それだけで激しく突き上げようとはしなかった。少し激しいくらいに慣れているセイランは、それでは容易く達することが出来ない。わざと煽るようなことを言っても激しくされないことが不安になって、セイランは肩に埋めていた顔を少しあげる。 「んっ、ぁ……、ルピ、ナス……?」 「うん? どした?」 「んんっ……なんで、動かないんだ……?」 「動いてるじゃん」 「ぁっ! そ、だけど……」  ルピナスは相変わらず一定の速度で体を揺らしていた。焦らされているわけではない。しっかりセイランが感じる点を貫いてくれているから、もちろん気持ちいいし込み上げる快感はある。ルピナスは不安そうに視線をさ迷わせるセイランに向かって、くすりと笑った。 「言ったでしょ? 好きな人とするセックス、教えてあげるって。イくことだけがセックスじゃないんだよ。たくさん感じてるところ、見せてよ」 「ん、んッ、ぅ……ん、あっ……」  腹の奥をひりつかせる欲が、絶妙な快感で悦んでいることはセイランが一番よく分かっていた。受け手が感じることを優先し、攻めの欲は抑制させたセックス。それはセイランがこれまで経験したことのないやり方だった。みんな、自分が良ければそれでいいというような連中だったから。こちらが感じてようが感じてまいがお構いなしの攻め方しか知らなかった。だから、そのルピナスのやり方は少しくすぐったかった。しかし、ルピナスを求める頭は、それでも温かく満たされていく。 「……っ、ひ、ぁ……! ふ、ぅ……あッ!」  セイランはルピナスの行為に大人しく身を任せ、激しくはなくとも確実に奥まで深く抉られる感覚を得る度に甘くルピナスにすがりついた。最初はそれが堪らなく心地よくて、「犯されている」という感覚の強さに酔いしれてただ与えられる快楽を素直に感じ取っていた。だが、そんな「愛されている」、「抱かれている」という甘い感情に目を向ける余裕は次第になくなっていった。  セイランは長時間感じ続けるあまり、普段以上に体を昂らせていた。三十分ほど経つ頃には、セイランは快楽の虜になり、全身が性感帯にでもなったかのような錯覚に陥っていた。ゆっくり突かれているだけなのに、体がびくびく震えて止まらない。蕩けた瞳が快感で満たされて、視界を滲ませている。瞬きをすると目の端を熱いものが伝っていく。唇は戦慄いて、唾液を飲み込む余裕もない。さぞかしぐちゃぐちゃに乱れた顔をしていることだろう。  ルピナスはセイランの様子を眺めながら、時折優しく髪を撫でてくれたり、胸にキスをしたり、抱きしめたりしてセイランを安心させ続けていた。その度に愛されていると感じて跳ねたセイランの心臓は、全身の感度をあげていった。  ただ同じところを突かれているだけのはずなのに、同じ快楽を繰り返しているはずなのに、同じじゃない。ルピナスの律動が、突かれる度により気持ちよくて仕方なくなる。髪の先から爪先まで、全身に愛撫が行き渡って、何をされても感じることしか出来なくなる。セイランがもう限界まで落ちていることはルピナスにも見透かされていた。

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