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第61話

 王都の側にある小高い丘。傾斜に立つ木々の間で身を隠しながら、ルピナスとセイランは王都に偵察に向かったミハネの帰りを待っていた。王都を一望出来る丘から見える限りでは、王都はいつも通りの賑わいを見せていた。東西南北に都に入るための門があるが、当然全ての場所で関門が行われている。道中の関所は地下道を通ることで無視出来たが、あれを避けるのは難しいかもしれない。 「ん、なんだ、あれ……?」  セイランは丘から見える二つの関門のうち、西側を見ながら首を傾げた。合わせてルピナスもそちらを見る。そこには複数の魔法使いの集団がいた。三十、四十人はいるだろうか。どこかのギルドの人間だとしても、あんなに大人数で行動するような仕事なんてあるだろうか。セイランが疑問を感じていると、ルピナスが眉間に皺を寄せながら言葉を返す。 「国の徴兵だよ。国中から力のある魔法使いを集めてるんだ」 「なんでそんなこと……、……あ、もしかして、おれが戦争を扇動した、から?」  これから戦争が起きるからだとしたら、あんなに大量の魔法使いが王都に集められているのも納得がいく。ルピナスはセイランが発した言葉に一瞬だけ目を細めるがすぐにセイランに気づかれないように表情を隠す。 「表向きはそういうことになってるね。でもお前は扇動なんてしていない、そうでしょ?」 「……うん」 「この戦争を起こそうとしている重罪人は、他にいる」  ルピナスは強く言い切って、王都の中に消えていく魔法使いの集団を眺めていた。徴兵がなされているというのなら、すでに王都の中にはもっと大量の強い魔法使いたちがいるのかもしれない。セイランは不安で震えそうになるのを堪え、フードを深く被り、マフラーとバンダナで顔を覆う。  敵の懐に飛び込むことになるというのは、ルピナスも言っていた。しかし、まさかこんなに大量の魔法使いを相手にすることになるとはセイランは思ってもみなかった。もし、この王都で自分の正体がバレたら。一体何人の魔法使いに追われることになるのだろう。ここまで自分をほう助してきたルピナスとミハネはどうなるのだろう。言いようのない恐怖が胸を覆う。 「セイラン」 「っ、……ルピナス?」 「大丈夫だよ」  ルピナスはただ一言、セイランに向けて微笑んだ。これまでも、ずっとそうだった。ルピナスの瞳は、セイランの全てを見透かしているようで、セイランが求めていた言葉を的確に与えてきた。シャムロックの図書館では、「自分は世界で二番目にセイランのことを知っている」といったことを話していたが、セイランには自分よりも、自分のことを知っているような。そう思えてならなかった。 「……なぁ、ルピナス」 「なーに?」 「もし、王都を無事に出られたら、聞きたいことがあるんだ」  ルピナスはセイランの真っ直ぐな瞳にキョトンとした顔をするが、それが真面目な言葉だと察したルピナスは笑って「何でも聞いていいよ」と返した。  あの日、森で出会った日。セイランにとっては、それがルピナスとの初めましてだった。だが、ルピナスにとっての初めましては、もっと以前のことではないのか。  ――ルピナスは、父さんに拾われる以前のおれを、知っているんじゃないか。  それがセイランの疑問だった。知らないのならそれでいい。ただ、もし知っているのだとしたら。自分はそれを知るべきなのかもしれない。それはセイランが知りたいからという理由よりも、ルピナスのために知るべきだからという理由の方が強かった。明るく振舞っているルピナスが時折セイランに見せていた陰のある表情。あれは、自分がルピナスについて大切な何かを忘れているからなのではないか。そう思えてならなかった。 「……セイラン、ミハネが出てきた。少し奥に隠れよう」 「ん、分かった」  入って行ったのとは違う、南側の関門からミハネが出てくるのを見つけたルピナスは王都から見えない森の奥に隠れるようにセイランの手を引いた。二人が動くと、側で控えていた三匹もついてくる。王都から死角になる位置でミハネが戻るのを待つ。ミハネは追われていないことを確認しながら、数分かけて合流地点へと戻ってきた。

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