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第86話
7ー12 再会
それからさらに月日が過ぎていった。
ロナードが16才になる頃のことだ。
「早いもんだな」
俺は、自分よりとっくの昔に大きくなってしまったロナードを見上げた。
「その年にお前のお父様は、俺と出会ったんだよ」
「マジか?」
ロナードは、それほど興味もなさそうだった。
「そして、お父様と出会った年に俺と影も出会ったんだよ」
「影と?」
ロナードは、俺に訊ねた。
「なんで、セイは、影と結婚しないんだよ?」
「だって、影のこと、1番愛してないからね」
俺は、そう答えた。
「1番って・・」
ロナードは、不満げだった。
「もう、どうせ、この森から出ないんだから影でもいいじゃないか」
「いや」
俺は、ロナードに笑みを浮かべて見せた。
「ダメなんだ」
その日。
俺には、この世界が開かれるのが感じられた。
「来た」
『ああ、来たようだな、主よ』
イェイガーが俺に答える。
「来たって何が?」
ロナードが俺にきいた。
俺は、にっこりと微笑んだ。
「俺がずっと待っていた人が、だよ」
俺たちは、森の畔に向かった。
俺とロナードと影。
俺たちは、決して森の外には出なかった。
俺と影は、1度出れば、2度とは戻れないから。
ロナードは、出ることが許されないから。
遠くの空から数頭の飛竜がやって来るのが見えた。
飛竜の背には、少し年老いたアルモナス王とサギリ、そして、相変わらず可愛らしいロキの姿があった。
そして。
もう1人。
銀の髪をなびかせた緑の瞳の男。
異国の服を身に纏い、俺の姿を見て懐かしげに目を細めている。
水面に着水した飛竜の背から男は、浅瀬に飛び降りて、森へとまっすぐに歩いて来る。
「待たせたな、セイ」
「別に、待ってなんて」
俺は、答えた。
「国は、どうしたんだよ?」
「息子に、皇太子のセイに任せてきた」
「マジかよ?」
俺は、なぜか、涙で霞んでいく目でその人のことを見つめていた。
会いたかった。
俺は、影とロナードを見てから歩き出した。
「セイ!」
ロナードが俺を引き留めようとした。
「ここを出たら、もう、ここには戻れなくなるぞ!」
「ああ」
俺は、ロナードに微笑んだ。
「わかっているよ、ロナード」
「セイ!」
俺は、それでも一歩を踏み出した。
森の結界が閉じられていく。
俺は。
俺の王の腕の中へと飛び込んでいった。
「セイ・・・セイ!」
王は、俺を受け止めると口づけしてきた。俺は、それに応じる。
「愛している、セイ」
王は、俺を抱き締めた。
「もう、離さない」
「俺も」
俺は、王に囁いた。
「愛している」
この世界の、いや、全ての世界の中で1番愛している。
王は、俺を連れて飛竜の背へと騎乗した。
「お前は、どうする?」
俺は、影にきいた。影は、何も言わずにただ頭を振った。
俺は、頷いた。
俺は、影がそう答えるだろうことを知っていたような気がする。
「ロナードを頼む」
「はい」
影は、俺にお辞儀をした。
俺は、王から受け取ったイェイガーの本体に首飾りのイェイガーを嵌め込んだ。
イェイガーは、呟いた。
『ずいぶんと遅かったの?』
「仕方がないだろう。捨てるものは大きいし、たくさんあったのだからな」
王は、いや、かつての王だった男は答えた。
俺は、飛び立つ飛竜の背からロナードと影を見た。
さよなら。
俺は、唇だけで語った。
ロナードは、泣いていた。
大きくなっても、まだまだ子供だな。
俺は、少しだけ、寂しさを感じていた。
上空へと飛び立った飛竜の背で男は、俺に訊ねた。
「よかったのか?」
「何が?」
「あの森を出てきて」
「いいも何も」
俺は、答えた。
「あんたが来たんだ。行かないわけにはいかないだろう?」
「そうか」
「ところで」
俺は、訊ねた。
「あんたの名前、まだ、訊いてなかったな」
「ああ」
男は、俺に囁いた。
「ロナード。ロナード・マリ・アリスティア。かつてのアリスティア王国 国王、だ」
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