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第48話 指輪の受け取りと篠田の出張(下)

週末、俺は人を呼んでおいた。 ピンポーン 「きたきた」 玄関のドアを開けると剣志が仏頂面で立っていた。 「いらっしゃーい」 「いらっしゃいじゃねーよ。この暑いのに呼び出しやがって…」 ぶつぶつ文句を言いつつ入ってくる。 「部屋の中冷えてるから良いだろ。何飲む~?ビールも酎ハイも冷やしてあるよ。晩御飯は冷製パスタだから涼しいよ」 「涼しさアピールがウザいんだよ」 頭を小突かれる。 「ひっど!」 「はいこれ」 振り向いたら緑色の紙袋を渡された。 「わ、この袋千○屋じゃね?」 「マンゴープリンと杏仁豆腐」 「やった!さすが剣志様俺の好みわかってる♡」 俺は早速頂きものを冷蔵庫に入れて冷やす。後で映画見ながら食べよう。 代わりに冷やしておいたビールとグラス、サラダを出す。 「ビールでいいだろ?手洗って来て」 「ああ」 剣志が手を洗ってる間に、冷やしておいたパスタをトマトソースで和える。 食卓に並べてると剣志が来てお皿を並べるのを手伝ってくれる。 意外と優しいとこあるんだよね。 「じゃあかんぱーい」 「いただきます」 「ありがとね、来てくれて」 篠田がいないから週末遊びに来いって言ったら本当に来てくれた。 「兄貴から見張っとけって言われたからだ。お前が何しでかすかわかんねーから」 「え!?そうなの?」 パスタを指して剣志が言う。 「これ、美味いな」 「あほんと?よかった」 俺はにこにこして剣志の顔を眺めていた。兄弟どっちも、もりもり食べてくれるから作りがいあるんだよね。 あ、お姉さんもか。 俺も食べながらあのときのことを思い出して言う。 「この前変なおばさんに襲われかけたから佑成気にしてんのかなあ?」 「変なおばさん?」 「うん、あのね…」 俺はホラーおばさんの話をした。 クッキーの下りは、食事中にしないほうが良かったかも。 剣志が顔を顰めていたのを見て気づいたが、もう話してしまった後だった。 「お前…ほんと変な奴に狙われまくってんな」 「うーん。なんでだろ?」 昔はそんなことなかったんだけどな。 「あ!そうだ忘れてた!」 俺は剣志が来たらすぐ見せようと思ってた物を忘れいてた。 「何?」 「見てみてこれ!」 左手の甲を剣志の眼の前にかざす。 「どうだ!」 「あー…。兄貴から写真送られてきたよ」 え!あの写真送ったんだ。 俺も送るところだったあっぶね~。 「いいでしょ。こんなのいらないって思ってたけど貰ったら嬉しくてさ」 「はぁ…なんで俺は休みの日に兄貴の家でお前に指輪自慢されてんだろうな…」 「いいだろ?寂しい独身の義弟を食事に誘ってやってんだから」 俺が口を尖らせると剣志は無言で首を振って食事を再開した。 そしてしばらくして口を開く。 「俺は今美人CAといい感じになってるから安心しろ」 「え!まじ?CA?!さすがイケメン…どんな子?写真無いの?ねえ、もう付き合ってんの?今度会わせろよ、なあ」 「うるせえな…だからお前にはこういう話したくねえんだよ」 剣志はあんまり詳しくは教えてくれなかった。 変な女だったら困るから、付き合いだしたら会わせてもらおうっと。 食事を終えて食洗機にお皿をセットして、酒をリビングの方に用意した。 それから、さっき貰ったマンゴープリンたちもね。 「よし!観るぞ」 「ああ…なんか観たい映画あるって書いてたけど何?」 「えーとね…ああ、これだ」 P◯◯m videoで見たかった映画を表示する。 「『屍霊村』…?なんだホラーかよ」 「うん。一人で見たくないじゃん?でも今日佑成いないしさ。剣志来てくれたら観ようと思って」 「ふん、30にもなって幽霊が怖いのかよ」 「いや。霊はいないと思ってるけどこういうのは怖いじゃん。ビビらせに来るだろ音とかで」 「まあな…じゃあ観なきゃ良いんじゃねえの?」 「ちがうんだよ、ビビるのが面白いんだって」 よくわかんねえな、と剣志は首を捻っていた。 俺は剣志のすぐ左側にくっつくように座って、剣志の長い腕を身体に巻き付けた。 「おい…なんだよこの体制は?」 「は?怖いからに決まってんだろ」 「いやおかしいだろ。お前の頭どうなってんだよ?」 「いいだろ男同士なんだから別に」 「男同士でこんなくっついてるのがおかしいって言ってんだよ」 「そうなの?」 剣志が何を怒ってるのかわからない。 義理の兄弟なんだからいいじゃん。ケチだな。 「じゃあ手はいいよ。そういやこれじゃお前がプリン食えないしな」 手を離してやる。 すると顔を覗き込んで来た剣志に文句を言われる。 「お前…バカすぎるだろ。こんなこと他の男にやってないだろうな?」 「あ?やらねえよ。誰にするんだよこんなこと。気持ちわりい」 バカはそっちだろ。 「兄貴に同情するよ…」 剣志は呆れた顔をしてプリンを食べ始めた。 俺も食べる。めちゃくちゃ美味い。 「じゃあ再生するぞ」 オープニングの画面になり俺はもう少し剣志の方に寄った。 「なんでこれなの?」 「これさあ、子供の頃やったことあるゲームが原作なんだよ。なぜか最近になって映画化したんだ」 「へぇ」 「それで懐かしいなと思って。結構面白いゲームだったし」 冒頭部分を見て剣志がすかさず言う。 「井戸…?なんかのパクリみたいな映画だな」 「やめろよ、そういう事言うの」 「男女3人で肝試しとかフラグ立ちすぎだろ」 馬鹿にしてニヤニヤ笑っている。 「だー、もう!集中できないだろ!」 「わかったよ、黙るからもう少し離れろ暑苦しい」 「やだよ」 押しのけられそうになったから俺は腕にしがみついた。 * * * * * 「ん…?あれ?」 どうやら俺は途中で寝てしまったらしい。 剣志は勝手に別の映画を観ている。 俺は剣志の肩にもたれかかっていた身体を起こした。 「ったく自分で選んだ映画で寝るなよ。うなされてたけど大丈夫か?変な夢でも見た?」 「え…ああごめん。大丈夫だよ」 そういえば寝てる間におかしな夢を見た気がする。 でもよく思い出せなかった。 つまんない映画だったな。そんなに怖くもないし。 ゲームはもう少し面白かったような気がするけど。 結局剣志が後から観ていた映画の方が面白かった。 今度はもう少しマシなホラー映画を探そうっと。 また一緒に観てくれるかな?

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