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第5章 真実 11※
「お前は、そのままでいいよ」
あの時、一ノ瀬に言えなかった言葉を、亜矢に対して口にしていた。
右手を伸ばし、目の前の薄茶の髪を触る。
芯があるが柔らかくて指通りの滑らかな髪。
驚くほど一ノ瀬のそれと似た感触で、一気に自分の熱が上がってゆくのを感じた。
きょとんと、亜矢が俺を見つめる。
――きっと次には、こいつは満面の笑みを俺に向けるのだろう。……その前に。
細い肩を引き寄せると、体勢を崩した亜矢は、俺の腕の中にすっぽりと収まった。軽く抱き締めながら、再び亜矢の髪を撫でると、明らかに動揺したように身じろいだ。
「あ、あのっ……千尋兄?」
「呼ぶな」
「え……?」
自分の冷たい声に、その言葉に、自分自身ハッとする。それでも、湧き上がる名もない感情が抑えきれない。
「亜矢。目、瞑って」
「な、に」
瞼に口づけながら腰に手を掛け、制服のスラックスの中からシャツを引っ張り出す。ボタンを上から順に外している間、亜矢は全身を強ばらせて息を潜めていた。
すべてのボタンを外し終え、腹の方からインナーの中に手を差し入れる。しっとりと吸い付くような肌をゆっくりと掌で撫でると、ビクンと体が震え、首のあたりが段々と赤く染まっていった。
不意に、指先が固い突起に当たる。その突起の上を何回か掌で往復した後、それを優しく摘んだ。
途端に小さな声がこぼれ落ちる。
「ぁ……、んっ……」
亜矢は素直にギュッと目を瞑って、されるがままになっていた。半開きの口から、鼻にかかったような甘い吐息が次々に溢れてくる。
俺はその震える唇をぼんやりと見ていた。
こんな状況なのに、脳裏に浮かぶのは一ノ瀬の姿だった。
記憶の中の色が鮮明に浮き上がり、虚像を形作る。
青白く光る肌の白と、艶やかな髪の栗色と、空虚な瞳の紺青――
「っく……ん、っん!」
亜矢の高い声で、現実に引き戻される。
「やっ!そこ、だ、め……」
自分の右手が、亜矢の熱を持った中心に触れていた。
無意識、だった。
いつ脱がしたのか、真っ白い太腿が露わになり、下衣が脛あたりの所で止まっていた。
「――そのまま、じっとして」
耳元で呟いて、先端の方から側面をゆっくりと掌の中で弄ぶ。
「ひ、ぁ……ッ!」
その声に驚くようにパッと口を抑えた亜矢の右手を左手で掴んで下ろし、そのまま指を絡めて手を繋いだ。
恥ずかしさを堪えるような声も、次第に艶のある喘ぎに変わってゆく。
いつの間にか、閉じていた目は薄く開けられ、涙を潤ませた瞳で見つめられていた。
その扇情的な表情に、思わず生唾を飲み込む。
「はすみ、って呼んで」
濡れた瞳が揺れ、紅い唇が微かに動いた。
「は、すみ……」
耳を掠めたその透き通るような声に、身体の底から熱が迫り上がってくる。それをどう解放すればいいのか分からず、白い肩口に唇を触れながら扱く手を速めた。亜矢の吐く息がさらに荒くなり、中心に伸びる右腕を制止するように掴まれる。
「……っや、だ……手、離して……」
「……ん?」
「ぁ……だめ……なん、か、変……っ」
「どこが?」
「わ、わかんな……出ちゃ、うからっ……」
それを聞いて、まさか、と思った瞬間。
「っふぅ……ん、ん……あッ――」
ピクピクと細い体が痙攣し、掌に生温かいものを感じた。
ぐったりと胸に寄りかかるように顔を埋めた亜矢の背中を、左手でぽんぽんと軽く叩く。
「お前、自分でしたことないの?」
「え、何、を……?」
「……マジかよ」
暫くの間そのままの体勢で、全身に伝わる亜矢の熱を感じていた。
「嫌だっただろ。勝手に触られて」
俺の問いに顔を上げた亜矢は、静かに首を横に振った後、はにかんだように頬を緩めた。
一気に押し寄せてくる罪悪感。
そして、自分の下半身の変化に気づいて愕然とする。
――何に反応した?亜矢か?……いや、違う。
そもそも、俺は一体何を考えていた?
どうかしている。
辿り着いた結論に当惑しながらも、自分自身を叱りつけることしか出来なかった。
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