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第1話 いつもの要求

求めた幸せはしょせん偽りの幸せだ。それでも……そうとわかっても、手を伸ばした。堕ちていくと分かっても止められなかった。 ********** 「伊織(いおり)ちゃん、今日も可愛いね」 ベッドに座るおれの背後から、冬夜(とうや)はそう言った。 「なあ……もう、こんなこと止めないか?」 後にいる男の名前は山野辺冬夜(やまのべとうや)。おれは冬夜の足の間に挟まるような形で座っている。冬夜は背後から手を伸ばし抱きしめるように腕を回す。 止めてくれと言ったが、それを聞く気は無いようだ。 その手はそのまま、スカートの上から太ももを撫でる。 「やめるって何を?男なのにこんな可愛い恰好してること、みんなに言ってほしいの?」 冬夜は意地悪く言う。 「そ、それはっ……」 冬夜が首筋にキスをして、舌を這わせる。 もがいてみたが腕ががっちり体に巻き付いているので、ほとんど身動きが取れない。 「おとなしくしてね。このシェアハウスは声がすぐ漏れるから、誰かに見られたら伊織ちゃんが女装してるのバレるよ」 「っ……」 耳元で囁かれて、仕方なくおれは動きを止める。それをいいことに冬夜は体に巻き付いていた腕を解いて、シフォンブラウスの下に侵入してきた。 その手はお腹から徐々に上の方に上がってきて胸をやわやわと揉む。指で突起の部分を刺激するとつまんだり捏ねたりする。 おれはなんとか唇を噛んで声を殺す。その間にも反対の手は、太ももをいやらしく触ってくる。 「乳首立ってきた。最近、反応もよくなってきたんじゃない?」 「う、うるさい。お前が何回も触るから……っ」 おれは声を殺しながらなんとか言い返す。しかし、その声には明らかに弱々しい。 しかも、強くつねられてその途端、変な声が出そうになった。 「気持ちいい?こうしてたら、乳首だけで感じるようになるよ」 「し、知らない……」 なんとかそう強がって見たものの、自分でも触られてジンジンして何かを感じているのが分かる。ギュッとシーツを掴んでなんとか感覚を逸らす。 徐々に体が熱くなる。 足を触っていた手がスカートの下まで侵入してきた。止めて欲しかったが足をもじもじさせる事しか出来ない。 「ほら、じっとして」 冬夜はそう言って耳を舐める。触られて感覚が色々敏感になっているのか、さっきより敏感に反応してしまう。 それが分かったのか冬夜がクスクス笑う。 「っ……と、冬夜」 「なに?」 「ゴム……付けて……汚れちゃう……から」 恥ずかしすぎて、俯きながら絞り出すように言う。延々と触れられたせいで体の中心が固くなってきたのだ。冬夜はそれを聞いてまたクスクス笑う。 「いいよ、じゃあ、スカート自分で捲って」 「っ!なんで……」 「付けて欲しいんでしょ?見えないと付けられないよ。それにスカート汚れちゃうよ」 そう言われて、仕方なくスカートをたくし上げる。そこには、女物の下着を履いた下半身が晒される。 「本当に伊織ちゃんは変態さんだね。男なのにこんなに可愛い下着着て。はみ出しそうになってるじゃん」 「おれは好きで履いてる訳じゃない。冬夜が履けって……」 毎回履いてこいと言ったのは冬夜だ。それなのに、いやらしい言い方をされて顔が真っ赤になる。 「本当に伊織ちゃんは可愛い。じゃあ、べとべとになる前にゴムつけようか」 冬夜はそう言ってコンドームを取り出すと袋を破り、下着を横にずらして陰茎をとりだして付ける。 「っ……あ……」 「まだ全然触ってないのに、もう硬くなってる」 冬夜はクスクス笑いながら言った。全部、冬夜のせいだ。 言い返したかったが敏感なところを触られてそれどころじゃない。 冬夜はゴムを付けてすぐに手で扱き始める。もう反対の手はまたさっきと同じように胸をいじり始めた。両方を刺激されてさらに体の中心が硬くなってしまう。 「っ……あぁ……ん……」 必死に冬夜の腕にしがみつき、声を殺そうとするが変な声がどうしても漏れてしまう。 「かわいい声……俺もしたくなってきた。こっち向いて」 冬夜はそう言っておれを向かい合わせの形にして座らせる。冬夜は自身の硬く勃ち上がったものを取り出した。 「っ……」 それは、おれのより大きくて浅黒い。硬く勃ち上がったそれには先走りが溜まっていた。 思わず見てしまって目を逸らす。 「伊織ちゃん、じゃあ、俺のにもゴム付けて」 「え?おれが付けるの?」 「付けてあげたんだから当然でしょ?まあ、付けなくてもいいよ。その代わり伊織ちゃんの服が汚れちゃうけど」 「っ……わ、わかったよ」 仕方なくおれはコンドームを手に取り取り付けようとする。 「ほら、早く付けて」 「っ、わ、分かってるよ……っう、って動かす……なよ」 なんとかゴムをはめようとするが冬夜がおれの中心を扱いているので、いちいち反応してしまって手が震える。 「相変わらず着けるの下手だね。まあ、そういうところが可愛いんだけど……でも、そんな風に触られると俺、すぐにいっちゃいそう」 「う、うるさい……っ……あ、で、できた」 なんとかゴムをはめることができた。 「ありがと、じゃあ、扱くのも手伝って」 「え?これも?っ……あ、ん」 冬夜はおれの手と自分の手を重ねて扱き始める。しかもおれの中心のものも束ねて一緒に扱き始めた。 不意打ちの刺激にまた声が出る。しかも腰を押し付けるようにゆすってきて、その擦れの刺激も加わった。 「あれ?唇赤くなってるよ、噛みしめすぎちゃった?」 「お、前のせいだ……ろ」 あまり声を出すと外に漏れる。だから必死に唇を噛んでいるしかない。 「じゃあ、俺が代わりに塞いでおいてあげるよ」 そう言って、冬夜は首を掴んで引き寄せると、おれの口を塞ぐ。 「んう……ん」 柔らかい唇の感触がしたと思ったら、ざらりとした舌が入り込んできた。 「ほら、こうしてれば大丈夫だろ?もっと口開けて」 そう言われていやだったのに動けなくて、そのうち息が苦しくなって結局開けてしまう。冬夜は首を傾けてさらに舌を入れ込み掻きまわす。 「んん……んぐ……」 「ほら、伊織ちゃん手が止まってるよ。ちゃんと動かして」 「っあ!んん……」 強めに握られてさらに激しくゆすられ、動きが早くなる。 「伊織ちちゃん自分ではいつもどうやってしてるの?やってみてよ」 「え?い、いま?」 「うん、今。俺は伊織ちゃんの口塞ぐので忙しいから」 「で、でも……んん」 断る隙もなく口を塞がれる。嫌がっていても脅されているので反抗しても意味がない。仕方なく自分の手で扱き始める。 しかし、やってみると凄く恥ずかしくなってきた。 自分が今までどうやってしてたかなんてあまり意識して無かったし、見られていると思うと、急にどうしていたか分からなくなって来る。 「へえ、いつもそうやってるんだ。伊織ちゃんの手俺より小さいから力が弱いのかな?裏筋とかは触らないの?あれ?顔が真っ赤だよ」 「う、うるさ……ん、ああ」 言い返そうとしたが、腰を引き寄せられてゆすられて動きが変わって感じてしまう。 「ほんと、可愛い……でも、このままじゃ俺もイけそうにないな。ほら、こうやって先っぽとかもいじって」 「んん!」 そう言って冬夜は俺の手に重ね、親指で先の方のをぐりぐりと押される。敏感なところを刺激されて体は素直に反応してしまう。 それを見て冬夜はクスクス笑う。 「いやそうにしてたけど、なんだかんだ感じてるじゃん」 「そ、そんなことな……い。んあ!」 「ほら、腰動いてる」 「だ、だから違うって……」 腰が動いていたのは冬夜がゆするからだ。否定したかったがそれどころじゃない。 「違うって、伊織ちゃんのここ凄く硬くなってるよ……気持ちいいんだ」 「あ……あんまり動かさないで……」 激しく刺激されて限界が近くなる。 「俺もイキそう……マジで気持ちいい」 冬夜はそう言ってさらに動きを早くさせる。 「っあ……もう、だめ……」 その多端、限界が来ておれはゴムの中に精を吐き出す。 その後に冬夜も顔をしかめ、体を痙攣させた。 おれは荒く息を吐きながらベッドに倒れこんだ。付けているウィッグがシーツに広がった。恥ずかしさと倦怠感で頭がぐちゃぐちゃになる。 「口紅取れちゃったね。っていうか俺が舐めちゃったのか」 冬夜はそう言って、倒れたおれに覆いかぶさり指で唇をなぞった。親指で撫でると人差し指を口の中に入れ弄ぶように舌を絡める。 「……んぁ。なあ、もう終わった?」 早くこの状況から逃れたくてそう言った。ゴムの中もぐちゃぐちゃで気持ち悪いし、服もクシャクシャで半分脱げてしまっている。出来ればこれで終わりにして欲しい。 しかし、冬夜はニヤリと笑う。 「何、言ってるの?俺はまだまだ満足してないよ」 「え?まだ……?」 「伊織ちゃんのイッた顔、めちゃくちゃエロいんだもん。まだ固くなってきちゃった」 そう言った冬夜の物はイッたばかりなのにまだゆるく勃ち上がっている。 「っ……なんで、男のおれ相手にこんな事するんだよ?相手してくれる女の子はいっぱいいるだろ?」 冬夜は誰が見てもイケメンだと言うような整った顔をしている、事実よく女の子に囲まれているし。付き合っている女の子を切らした事が無いって噂で聞いた。。 「だって、恥ずかしがって嫌がる姿が可愛いんだもん。すぐに真っ赤になるところも可愛い。めちゃくちゃ興奮する」 「っ、変態……」 「男なのに女の子の恰好そ好きでしてる人には言われたくないなー。それにこの事ばらされたくなかったら俺のいう事聞いた方がいいよ」 「っそれは……」 「じゃあ、ゴム交換しようか」 「も、もう?……んっ」 そう言って手を突っぱねようとしたが、冬夜は手早くゴムを新しいものと交換すると、早速覆いかぶさる。 そして、何か言う前に口を塞がれまた二人のものを束ねると、またゆるゆると動き出した。 「じゃあ、またしようね伊織ちゃん。その時は連絡するから」 一通りやり終わって満足したのか軽くおでこにキスを落すと、冬夜はそう言って部屋を出ていった。 おれは返事をする元気もなく、ベッドから黙ってそれを見送る。 「はあ……疲れた……」 しばらくぼんやりして休憩した後、のろのろと起き上がる。そして、ほとんど取れてしまったがしていた化粧を落す。 「どうしてこんな事に……」 鏡に映るおれの姿はどう見てもウイッグを付け女性物の服を着た男だ。もともと貧弱な体だし特徴のない顔のせいでぱっと見は女の子に見えなくはないが、よく見ると男にしか見えない。 おれは、改めてなんでこんな事になってしまったのか、これまでの経緯を思い出す。

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