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19.いざ、リゾートホテルへ(4)

「ねぇお兄ちゃん」 「ん、何だい?」  ミオの声がする方を振り向くと、ミオはの広い、ラフィアで編まれたフリンジハットを被っていた。 「どうかな、これ。似合いそう?」 「いいねぇ、夏にぴったりじゃん。すごくかわいいよ」 「ほんと? よかったぁ」  実を言うと、ミオが被るフリンジハットは女の子向けの製品だ。  ただ、素材の程よい涼感と優しい触り心地に加え、日除けには最適との触れ込みだったので、ミオと話し合って購入したのである。  それを今、ミオが被ってみて披露してくれたのだが、やはり女の子に負けず劣らずのショタっ娘なだけあって、何ら違和感が無い。  むしろ、これで女の子と間違われる確率がグンと上がるかも知れないな。  ちなみに、帽子の編み込みに使われた〝ラフィア〟という素材は、アフリカ大陸南方の島国であるマダガスカルの島で育った、ラフィアと呼ばれるヤシの木の葉っぱを乾燥させて出来た繊維なのだそうだ。  で、その繊維で編んだ帽子は肌触りがよく、型崩れもしにくいという事で、近年は麦わらを追い抜く勢いで台頭しつつあるらしい。  ランドセルやショーツ、そしてこのフリンジハットといい、ミオと一緒に暮らすようになってから、ファッションの変遷(へんせん)というものをヒシヒシと感じるようになった。  それはすなわち、俺が何とか、最新の流行について行けているという事でもある。  ミオがいなかったら、俺は今ごろ、普通に時代遅れで野暮ったいアラサー男になっていたんだろうな。  なんて事を考えながら、再度の荷物チェックや戸締まりなどを入念に行っていると、ようやく出発の時が来た。  家からは自家用車を駆って、渡船乗り場へと向かうことになっている。  出かける前に、あらかじめミオに酔い止め薬を飲ませておき、いざ出発。  三十分ほど車を走らせてたどり着いた渡船乗り場には、ご親切な事に、無料駐車場が用意してある。  あまり大きくないこの港と、停泊している船の数々を見る限り、ここで渡船を運営しているのは、零細企業や個人事業主がメインのようだ。  で、俺たちが利用する渡船屋さんは、釣り客の渡し事業の他に、ホテルのある離島の観光協会と専属契約を交わしており、およそ一時間ごとの定期便を出す事にしているらしい。  それゆえにハイシーズンは常に仕事が途絶えない〝左うちわ〟状態で、相当儲けているもんだから、タダで車を停めさせてくれるスペースを確保する余裕すらあるのだと思われる。  という事で我が家の愛車とは、ここでしばしのお別れ。 「そちらの青い髪のお嬢ちゃんは、船は初めてかい?」  渡船のチケットを渡す際、お爺ちゃんの船長が、ミオを見てそう尋ねてきた。 「お嬢……」 「えっと。はい、実は初めてなんです」  またしても女の子に間違えられ、呆気にとられているミオに代わって、俺が返事をする。 「そっかそっか。じゃあ、おじちゃんがいい席に連れて行ってあげるから、こっちにおいで」  船長さんの親切心による取り計らいで、ミオ〝お嬢ちゃん〟と、ついでに俺は、最も眺めのよい前方の席を案内してもらう事になった。

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