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19.いざ、リゾートホテルへ(6)
そうこうしている間に、俺たちと他の観光客を乗せた船は、島で最も大きい船舶ターミナルに到着した。
ここからは、ホテルが運行するマイクロバスに乗って現地まで向かうわけだが、この時期はハイシーズンという事もあって、特に連絡しなくても、バスは定期便で迎えに来るらしい。
クーラーの効いたターミナルの待合所で待っていると、程なくして、パリッと正装した黒服の従業員さんがやって来た。
「お待たせいたしました。これから、ジャパン・エリオット・スターホテルへのご宿泊のお客様をご案内いたします」
「来た来た。さ、行こうかミオ」
「うん。楽しみだねー」
渡船と連動して迎えに来たマイクロバスには、俺たちのほか、十人くらいの宿泊客が乗り込むようだった。
運転手さんと一緒に乗ってきたホテルの従業員さんは、名簿を挟んだバインダーを持ち、乗客の名前と、宿泊客の名前を一人ずつ照合していく。
なぜそういう手続きを踏むのかというと、泊まりもしないのに、タクシー代わりでタダ乗りしようとする輩が出るおそれがあるからだ。
もしかすると、すでにそういう前例が出ていたのかも知れない。
俺たちが泊まるジャパン・エリオット・スターホテルは、この船舶ターミナルから車で十五分ほど走ったところにある。
で、そのホテル周辺は非常に開けた場所で、観光名所も多いため、観光客が集まりやすい。
仮に、ホテルには泊まらないけど、その観光名所には金をかけずに行きたいという輩が大量に乗り込んで来た場合、果たしてどうなるか。
答えは簡単。その輩のせいで本来の宿泊予定客が定員からあぶれてバスに乗れず、次のバスが来るまで待つか、仕方なくタクシーで現地まで行くか、という最悪の選択を迫られてしまうのである。
かような無様極まりない失態だけは絶対に許されないし、顧客に対して最高のサービスを提供するためにも、ホテル側は厳重なチェックを行うのだ。
ホテルが出しているバスはあくまで宿泊客の送迎用バスであって、決して観光バスではない。
例え乗客がたった一人だけであっても、だからといって一度でも部外者を乗せると、それが悪習と化してしまう。
少し考えれば分かるだろうに、それを理解していないのか故意でやっているのか知らないが、残念な人はどこにでも現れるので、こういうやり方を採らざるを得なくなるのだそうである。
「お名前を頂戴してもよろしいでしょうか」
「はい。柚月義弘 に、唐島未央 と申します」
「ありがとうございます。大きな荷物がございましたら、こちらでお預かりいたします」
「ミオ。リュックサックはどうする?」
「ボク、車の中に持ってくー」
「そっか。じゃあすみません、これだけお願いします」
「はい、かしこまりました」
従業員さんは俺が持ってきたキャリーバッグを受け取ると、きびきびとした動きで、マイクロバス後方のトランクスペースに収納してくれた。
「さ、乗ろうか」
「うん」
俺はミオを先に車内へと招き入れ、座席が二人分空いているところを確認する。
さすがにこの時間ははお客さんが多く、ほぼ満席に近い状態だったが、先に乗ったミオは、前方の二列シートの席をしっかり確保していた。
なるほど。ここからなら、いい景色が拝めそうだ。
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