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19.いざ、リゾートホテルへ(8)

 窓から見える景色についていろいろ話をしていると、前方にそびえる大きな建物が、徐々に姿を表し始めた。 「ご乗車お疲れさまでした。当バスは、間もなくホテルに到着いたします。どなた様も、お忘れ物のございませんよう……」 「ミオ、あれがホテルなんだって。見てごらん」 「わぁー、大きいね。パンフレットで見てたのよりずっと大きく見えるー」  ミオが驚くのも無理はない。いざ実物のホテルをこの目で見ると、その(たたず)まいは、まさに〝壮観〟の一言に尽きる。  俺たちがこれから泊まるジャパン・エリオット・スターホテルは、客室の階層だけでも七階はある。  そしてホテルの横幅がとてつもなく広いものだから、一階ごとの客室も相当な数になるのだろう。  バスのモニターで放映されていたホテル案内によると、総客室数は何と、二百八十七室もあるそうだ。  ここは一部屋あたり四人まで宿泊可能との事なので、仮に、全部の部屋が四人で埋まったら、宿泊客の数は千百五十人近くにまで上る。  しかも夏場のハイシーズンは、その客室が連日の満室になるのだと言うのだ。  そういう事情を鑑みて、佐藤の奴は相当粘り強く、半年前から予約サイトに張り付いていたんだろうな。  その数ある客室の中で、佐藤は、オーシャンビューを楽しめる部屋を予約できたと言っていた。  つまり、俺たちは割と上の方にある客室に泊まる事になるのかな?  最上階はスイートルームらしいから、たぶんその下なのだろうとは思うけど。 「ふぁー、着いた着いた。船着き場から結構あるんだなぁ」  バスから降りた俺は手を組み、上にかかげてぐっと伸びをする。  ミオはホテルのあまりの大きさに圧倒されたようで、口をぽかんと開けたまま、高くそびえる建物を見上げていた。  まぁそういう反応になるよな。  ここまで大きな建造物を生で初めて見ると、ミオだけに限らず、観光客の多くが似たようなリアクションを取るだろう。  しかもホテルの庭には、宿泊客だけが利用できる広大な屋外プールまであるのだ。まさにリゾート施設として至れり尽くせりではないか。  プライベートビーチでは泳ぐもよし、アクティビティに参加して遊ぶもよし。  堤防の方に行けば、釣り道具やエサが一式レンタルできるから、ミオが好きな魚釣りも楽しめる。  とにかく、このホテルは客を喜ばせるためのサービスを盛りだくさん用意してあるという事。  そりゃあ、半年前から予約が埋まるのも分かる話だ。  さて、せっかくだから記念に写真でも撮っていこう。 「ミオ、こっち向いて」 「……ん? なぁに?」 「ホテルと一緒の写真を撮るよー」  そう言って俺は、リュックを胸に抱くミオと、ホテルの外観を写真に収めた。 「お兄ちゃん、撮れた?」 「撮れたことは撮れたけど、ホテルが広すぎて、フレームに収まり切れないなぁ」 「ねぇねぇ。せっかくなら一緒に撮ろうよ」 「え、一緒に?」 「うん。ボク、お兄ちゃんと一緒に写りたいの」  そっか、今写真を撮ってるのはスマートフォンだから、インカメラを使えば、簡単に〝自撮り〟ができるんだったな。 「よし。じゃあ、一緒に撮ろう」 「はーい。お兄ちゃんにくっついちゃうよー」  ホテルの最上階までを写すために、俺たちは中腰の姿勢で体を寄せ合い、ローアングルで写真を撮った。  うん、今度はいい出来だ。  ミオにも見せてみたが、ホテルの外観よりも、一枚の写真に二人で収まった事を喜んでくれた。  今までは、ミオの可憐で(すこ)やかな姿を撮る事ばかり考えていたけど、当のミオは、ほんとは俺と一緒に写りたかったんだな。  これからは、そういう写真をもっと増やしていこう。

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