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21.魚釣りと温泉(9)
せっかくの機会なので、シャンプーをする時はどうするのか、二人がそれぞれやっている洗い方を見せ合ってみる。
短髪の俺は、シャンプーがすぐ泡立つし、頭部全体に泡が行き渡りやすい。
かたやミオの方は、いかにショートヘアと言っても、耳を完全に露出させるために、時折髪をかき上げるくらいには伸びている。
前髪はもちろんの事、後ろ髪も肩に届くほどあるので、シャンプーの量や馴染ませ方は俺のそれとはかなり異なり、泡立てるのにも少し工夫が必要なようだ。
爽やかなブルーの髪が、シャンプーの白い泡でモコモコになるのを見ていると、何だか微笑ましくなる。
ミオはシャンプーの後に使うリンスにも手間をかけるようで、現在通っている小学校では、クラスメートの女の子たちと髪質についていろいろ話をするらしい。
女の子たちはすぐミオの髪の毛を触ってきて、やれあのリンスがいいとか、コンディショナーの方が潤いがあるとか言って、各々が違う商品を勧めてくるのから困惑するのだそうだ。
ただ、学校通いをするまではシャンプーに疎かった自分にも、髪のおしゃれに関する知識が口コミで入ってくるようになり、それから〝ある事〟を考えるようになったという。
その〝ある事〟というのは、俺にいっぱいなでなでしてもらえるような、サラッとした髪質になるにはどうしたらいいか、という点。
そんな事まで考えなくても、たくさんなでなでしてあげるのに、ほんとに健気だよなぁ。
でも、そうやってミオが髪の毛のコンディショニングに気を遣ってくれているから、ふわふわとしたボリューム感の、かつ、サラサラで常に撫で心地のいい髪のままでいられるんだろうな。
「お兄ちゃん、頭も洗い終わったよー」
「よーし。そんじゃ、温泉に浸かろうか」
「うん。温泉に入るの初めてだから、ちょっとドキドキするなぁ」
「ははは、そんなに緊張しなくてもいいって。普通に風呂に入るのと変わんないよ」
「そうなの?」
「まぁ、温泉の場合は、入る前にかけ湯をした方がいいんだけどね」
「かけ湯ってなーに?」
「ほら、ここに風呂桶があるだろ?」
と、俺は浴槽のすぐ手前に置かれていた、やはり木製の風呂桶を手に取った。
「この風呂桶に温泉のお湯をすくって、最初は足から、順々に上の方までお湯をかけていくんだよ」
「それってどういう意味があるの?」
「今から入る温泉のお湯を汚さないために、体を洗い流す必要があるんだけど、それはまぁ、さっき洗い場で綺麗にしちゃったから必要ないとして」
俺は説明を続けながら温泉のお湯をたっぷりとすくい、風呂桶を満たす。
「今回は、温泉の熱さに慣らしておくという意味でかけ湯をする方がメインかな。ミオ、この桶に手を入れてごらん」
「んー。洗い場のシャワーより熱いかも」
「だろ? だから、あらかじめかけ湯をして温泉の熱さに慣れておかないと、いきなり入ったりしたら体によくないんだよ」
「そうなんだ! お兄ちゃん、何でも知ってるんだね」
「そんな事ないよ。昔、たまたま会社の慰安旅行で温泉に行く機会があったから、俺もその時に教えてもらっただけさ」
「ふーん。で、その温泉ってコンヨクだったの?」
「え!?」
ミオが突然ジト目で俺を見つめ、とんでもない質問をぶつけてきた。
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