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21.魚釣りと温泉(11)
「ミオ、ごめんな」
「え? どうしたの? お兄ちゃん」
「今までお風呂は別々に入ってただろ? それが、ミオにさみしい思いをさせてたんじゃないかって考えてたんだ」
「お兄ちゃん、そこまで考えてくれてたの? やっぱり、すごく優しいんだね」
「優しいかなぁ? 今までお風呂の事に気がつけなくて、鈍感だったなーとは思うけど」
「そんな事ないよー。ボク、今はすごく嬉しいんだからねっ」
「そっか……ならいいけど。でさ、これからは、できるだけ一緒にお風呂に入ろうよ」
「いいの?」
「うん。仕事で残業とかがあって、帰りが遅くなるかも知れないけど、約束するよ」
「ありがとう。お兄ちゃんだーい好き」
ミオは天使のような微笑みを浮かべ、俺の肩に頬ずりをした。
こんな、他の宿泊客がいっぱいな大浴場で、ところ構わずのろけちゃったわけだが、自分の発言に後悔はない。
世界で一番、自分を好きでいてくれる人と一緒にいる事が、二人にとって何よりの幸せなんだ。
だから、今日からはお風呂も一緒だと、そう決めた。
お互いのタイミングがなかなか合わない時もあるかも知れないが、できるだけ、同じ時間をたくさん過ごせますように。
縁結びの神様、これは追加のお願いなんだけど、聞いてくれてるかな。
「ねぇお兄ちゃん。あっちに泡がたくさん出てるお風呂があるよー」
「ああ、あれはジェットバスって言うんだ」
「じぇっとばす?」
「うん。お風呂の中から空気を含んだお湯が噴き出してくるから、あんな感じで泡が浮いてくるんだよ」
「そうなんだ。ボクも入ってみてもいい?」
「もちろんいいよ。行っておいで」
ミオは温泉から上がると、頭に乗せていたタオルを腰に巻き、真っ白な湯気に包まれながら、ジェットバスの浴槽へと向かう。
よかった、普段から肌の露出が多い子だからどうなるものかと思っていたが、羞恥心 は人並みにあるようだ。
ミオは家にいる時こそ、風呂上がりには上半身裸で布面積の小さいショーツ一枚という、あられもない格好で脱衣所から出てくるんだけど、あれはきっと、俺に対して全面的に気を許しているからなんだろうな。
もうもうと沸き立つ湯気の中、ジェットバスが取り付けられた浴槽にたどり着いたミオは、再びタオルを頭に乗せ、もう一度かけ湯をする。
そして何かを確かめるかのように、ゆっくりと、片足ずつ浸かっていった。
「すごーい! お湯が足に当たってるよー」
初めてのジェットバス体験に、うちの子猫ちゃんも大興奮だ。
いい機会だし、俺も温泉はこのくらいにして、久しぶりにジェットバスに入ってみるか。
「どうだい、お湯がいっぱい出てきてるだろ?」
「うん。ちょっとくすぐったーい」
ゴボゴボと噴き出るお湯は体のあちこちを刺激するので、まだ慣れないミオは、こそばゆそうにモジモジしている。
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