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26.夏のマリンアクティビティ(6)
「ボクが彼女になったら、思いっきり甘えちゃうけど、いいのかな」
「もちろんいいよ。それって今まで通りって事だろ?」
「うん。いっぱい抱っこしてもらって、いっぱいスリスリするの」
ミオは俺への愛情表現として、甘える時には、夢中になって頬ずりをするのがクセになっている。
他にも、俺があぐらをかいて座っている時は、股の間に入ってきてくつろいだりしてくるので、その様はさながら子猫ちゃんのように見えるのである。
何より魚が大好きだし。
そう考えると、あの元カノとミオは、性格から何から、全てが正反対なんだなぁ。
恋人としてどっちが好きかと聞かれると、そりゃ当然ミオの圧勝なんだけど、いかんせんこの年の差だから、ほんとに俺が彼氏でいいのかなって気にはなる。
あとは、恋人同士になった二人を、世間がどんな目で見て、理解を示してくれるのか。
もっとも、俺に一途なミオの事だから、そんな年の差や世間の目などの問題なんて些末 な事だと思って、歯牙 にもかけないんだろうけど。
「あ! お兄ちゃん、ボートが停まってるよー」
「ほんとだ。あれが三時四十五分発の便なんだね」
直射日光でジリジリと焼けた砂浜を歩き、再びグラスボート乗り場へと戻ってきた俺たちを、係員さんは笑顔で迎えてくれた。
「ちょうどいいお時間でしたね。ボートは十分後に出発いたしますので、乗船してお待ち下さい」
係員さんに渡した乗船チケットの半券をもぎってもらい、安全のために渡されたライフジャケットを着て、俺たちは桟橋の乗り場からボートに乗り込む。
船の中央には、透明かつ頑強な細長いガラスが船底に張ってあり、ここから海底を覗き込むシステムになっているのだ。
このガラスを上から眺めやすくなるよう、両脇には長椅子が据え付けてある。
長椅子に座れるのは片側八名ずつが限度らしいので、参加者の定員は、一回の出航につき十六名までという事に決まっているようだ。
予約しといてよかったなぁ、もし行きあたりばったりで乗りに来ていたら、俺たちはあぶれていたかも知れないんだから。
船内では、すでに数人の先客が見晴らしのよさそうな場所を確保していた。
どうやら指定席というわけではなさそうなので、俺たちもボート右側の長椅子に隣り合って座り、出航を待つ。
しばらく待っていると、少し遅れて他の予約客たちが、ぞろぞろと船内に乗り込んできた。
係員さんは乗船している客の人数をカウントし、定員の十六人が揃っている事を確認すると、両手を頭の上に掲げて丸を作り、船長さんに〝出航OK〟のサインを出す。
船長さんはそのサインを受けて船のエンジンをかけると、操縦席にある船舶用マイクを手に取り、天井に設置されているスピーカーを通してアナウンスを始めた。
「大変長らくお待たせいたしました。ただ今より、皆様を海底の世界にご案内するグラスボートが出航いたします」
乗客の数名から送られた、パラパラというまばらな拍手が、本格始動したエンジンの音にかき消される。
いよいよ、本日二つ目のマリンアクティビティが始まるのだ。
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