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34.実食、イカ料理(3)
今しがたミオに祭りの説明をした俺も、実を言うと、嘉良詰 神社の納涼祭に出向くのは今度が初めてになる。
住んでいる場所が同じ県だとは言っても、完全な地元じゃないから一緒に行く友達はいないし、会社の同僚と行くのも何だかむなしい。
何より、生粋の非モテ男である俺には、デートスポットとしての意味合いもある納涼祭なんて、無縁のものだとばかり思っていたのだ。
でも、今年からはミオがいる。
俺の事が大好きで、お嫁さんになりたいとまで言ってくれたショタっ娘が、俺の彼女役としてそばにいてくれるのだ。
こんなにかわいい美少女のような顔の男の子とお祭りデートできるんだったら、そりゃあもう、何を差し置いてでも予定は空けとかなきゃだよな。
それから、せっかくお祭りに行くなら、雰囲気を出すという意味でも、ミオのために浴衣を買ってあげたい。
でも、浴衣ってどこで買えばいいんだろう。
こういうのって、実際にミオが見て、触れて、フィーリングで欲しいものを決めてもらうのが一番だと思うんだよな。
サイズ合わせも大事だから、こればかりは、さすがにネット通販で取り寄せるって選択肢は無いかなぁ。
時期も時期だし、今はデパートやショッピングモールにある、子供向けアパレルショップに行けば売ってるかも知れない。
明日は日曜日で仕事も休みだし、ミオさえOKしてくれたら、さっそく浴衣選びに出かけるとするか。
ミオだったら、「かわいいから」って理由で、女の子ものの浴衣を欲しいって言うかもなぁ。ふふっ。
「お兄ちゃん。ぽっぽ焼きとイカ飯ってすごく合うねー」
イカ料理を食べる手を止めて、物思いにふけっていた俺を引き戻したのは、お代わりのぽっぽ焼きでイカ飯を食べる、ミオの満足げな声だった。
そうだ、俺はこのぽっぽ焼きをおかずに、ご飯ものに分類されるイカ飯をいただくつもりであって、ボーッとしている場合ではない。
料理が冷めて鮮度が落ちる前に、今日ここへ来るきっかけになったイカ飯を食らうとしよう。
「懐かしいなぁ、このもち米独特の食感。粘り気の強さがうるち米とは段違いなんだよな」
「お米の色も普通のご飯とは違うよね。何だか、イカでくるんだお餅を食べてるみたい」
「確かにそうだな。ここで作ってるイカ飯はもち米の割合が多いから、ご飯ものというよりは、餅を使ったおかずって感じだね」
「じゃあ、おかずでおかずを食べてるって事になるのかな。……でもおいしいからいっか!」
「ははは」
ミオの切り替えの早さが微笑ましい。そして、実にポジティブな考え方だ。
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