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第24章 四年次・8月(5)
「それも脱げよ」
いつものように上だけを着たままの茂に、高志はそう言った。その言葉に、背を向けた茂が振り返る。
「……何で」
「邪魔だから」
言い放つ高志に、茂はなおも躊躇した。何かを言い返そうとする気配が伝わってくる。
「別に平気だろ。女じゃないんだから」
高志のその言葉は、自分で意図したよりも冷たく響いた。
茂は高志を見ると、もう何も言おうとせず、黙ったまま全てを脱いだ。ついたままの部屋の照明が茂の裸体を照らす。数分前、いつものように電気を消そうとした茂に高志が「消さなくていい」と言った時も、茂は何も言わなかった。
茂が今までそうしていた理由を、高志は充分に分かっていた。しかし同時に、それは高志にとって何の意味もなかった。初めて目にする茂の背中を見ながら、どちらにしたって何も変わらない、と高志は思った。茂が少しだけ腰を浮かせるのを見て、高志は黙ってジェルを手に取った。
茂が呼吸する度、そして高志の指に小さく反応する度、その背中は肌の下で筋肉や骨が動く様を余さず浮き上がらせた。指先から時折くちゅくちゅと湿った音がする。茂はいつも以上に声を堪えているようだったが、その姿勢は徐々に前屈みになり、床についた両手の指に力がこもった。
そこが柔らかくなってきた頃、高志はもう片方の手で自分のものを刺激し始めた。しかし触る前からそれが既に少し立ち上がっているのに気付く。男の体を見ても興奮などしないのに、快感を覚えてでもいるのだろうか、と不思議に思う。これが普通なのか、それとも自分に多少そういう性質があるということなのか、どちらか分からない。
四つん這いになって高志の挿入を待つ時、いつものように茂は自分の男性器を手で覆い隠した。それも高志にはあまり意味がないことのように思えたが、その裏にある茂の心情が滲み出ているようで、何も言わなかった。先端を窄まりに当てて押し込むと、やはり茂の体は目に見えて強張った。腰が少しだけ前方に逃げる。その腰を手で押さえてゆっくりと進めながら、高志は自分自身が茂の中に少しずつ入っていくのを見ていた。自分が今まさに茂に苦痛を与えているのは明らかだった。何回やっても、頭の中で何かが噛み合わないような違和感が消えなかった。
「……何でこんなことしたいんだ」
気付けば高志は問うていた。予想どおり、茂の返答はない。顔を伏せたままでは表情も読めない。高志も特に答えを期待してはいなかった。
高志にはどうしても、茂が自分に性的興奮を覚えているようには思えなかった。茂の一連の行為を思い返しても、キスを別にすれば、たまに高志の体に触れるのも性欲によるものとは思えなかったし、高志の下半身にも、ただ勃起させるためだけに触っているような感じだった。それは高志が茂の体に興奮しないのと同じで、むしろよく理解できた。茂は自分が達するところを高志に見せたこともなかった。挿入時の苦痛が和らいでくる頃に、少しずつ呼吸の端々に快感を滲ませてくる、それだけが茂が高志に見せる唯一の性行為の片鱗だった。
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