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4:作り話(思考)

「うぅっ。キミは前世の誰か今まで会ったことはあるかい?」 「いえ。それどころか俺の居た世界と同じ世界の記憶を持つ人とは会った事がありません。小さな世界だったんでしょうね。俺の前世の世界は」 「そんなっ……それではキミは今までずっと、孤独だったんじゃないかっ」  画家の男。こいつは良い奴でもあり、酒を飲むと泣き上戸になる奴なのだろう。  もうめちゃくちゃ泣いてる。  落ち着け。そんな凄い話、俺はしてぇよ。てか、孤独じゃねえし。  前世の知り合いと会える奴も、この画家のように少なくはない。  けれど、特に多くもないのだ。  先ほどの言ったように“日本”のようにポピュラーな世界の前世であれば、ある程度の確率で出会う事もあるようだが、それにしたって前世は前世だ。    生きてるのは今なんだよ!普通に現世の友達居るから!俺!  と、この感覚も全て俺に前世の記憶がないからだ。 記憶があるやつからすれば、確かに画家のような感覚になるらしい。俺にはちっとも分からない感覚だが。 「僕はキミに前世の話を聞いてもらってから、あの日々をとても身近に感じる事ができた。だからキミも僕に話して、今この時だけは、あの頃を隣に感じてみてくれ……!」 「え」 「さぁ、キミの親友達の話を詳しく聞かせてくれ!オブは裕福な家の子と言っていたが、どうしてキミと仲良くなった?フロムとはいつから友人だったんだい?妹のニアはキミのいくつ下?!」  いやいやいやいや。  やめてくれ!そこまで深い設定はこの話にはないんだよ!    アルコールによって一気に垣根のとっぱらわれた距離感で、画家は前のめりで質問攻めをしてきた。   「え、えっと……」  ここまで深く前世の話を突っ込んで聞かれた事がなかった為、俺はかなり動揺してしまった。  若くして死んでいるという事を話すと、大抵は先ほどの下りだけで皆納得してくれる。    俺は落ち着く為に、とりあえず酒を飲む事にした。  そうだ、飲み干して早く帰ろう。  それが良い。明日も仕事だし。   「マスター!彼にまた同じものを!」 「え!?」    いや、いいから!?もういいから!?    そんな俺の気持ちを他所に、仕事の早いマスターはすぐに朱色の酒を持ってくる。そして優しく微笑むと、また去り際にウインクをした。  酒場での微笑ましい出会い酒みたいにされているのが、ひしひしと伝わってくる。    困ったことに、俺は新しく来た酒のせいで帰るに帰れなくなってしまった。   「さぁ、あの頃を思い出してごらん」 「……どこから話そうか」    どこもかしこもねぇわ。  スタートはどこだよ。こんな事ならもっと細かく設定作っとけば良かったよ!   「やっぱり、話すなら……ここからだろうか。いや、やっぱりここからかな……」    無駄とも思える多少の時間かせぎ。  次の瞬間、俺は覚悟を決めると、酔った頭で必死に作り話に枝葉をつけていった。  若干酔いが回っていたお陰で、普段にはないドラマティックさが俺の話に追加されていったことは、最早仕方のない話だろう。 

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