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20:愛着のない部屋

 俺の住んでいる部屋は市内から少し離れた所にある。俺の職場はあんなだが、一応公共事業の一端であるため国営だ。 その為、そこに務める労働者には社宅として部屋が一つ、無料で貸し出される事になっている。まぁ、寮のようなものだ。  市内から離れているとは言え、王都に家賃無料で部屋が借りられるのは国営事業に携わる者の特権だろう。  しかし、だ。 「ほんっとに一部屋だけなんだよなー」  俺は自分の部屋で独りごちると、地面に敷かれた毛布の塊に顔を突っ込んだ。    本来、この部屋は土足だ。  というか、一般的にどこも土足だ。そして、土足であるが故、基本的に誰もがベッドで寝るのが普通である。  しかし、この部屋の狭さではベッドなど置いてしまえば生活空間が半分以上なくなってしまう。その為、俺は空間確保の為に、いつも床にマットと布団を敷いて寝ている。  寝ていない時は、マットと布団はこの部屋唯一の収納スペースであるクローゼットに詰め込んで場所を確保するのだ。  毎日毎日、布団を畳んでクローゼットに仕舞込む事の面倒な事といったら。  部屋に呼ぶ相手など居ないから良かったものの、こんな玄関先で靴を脱がなければならないような部屋、おかしくて人には見せられない。    蛇足だが、昔むかし、弟がこの部屋に泊りに来た事があった。  こんな部屋に住んでいる事がバレれば、兄としての威厳は更に地に落ち、ヤツは心底俺の事をバカにしてくるだろうと、俺は必死で宿を取るにように言った。  しかし、甘かった。  弟が俺の言う事を聞いた事は、この人生上一度としてなかったのだ。  案の定、俺の提案を無視してやって来た弟だったが、なんとその弟。    自然と玄関先で靴を脱いで、上がったのだ!    挙句「この狭さ、昔を思い出すな」等とのたまい、文句一つ言わずに床に布団を敷いて寝たのであった。  そんな事があってからだ。この部屋にたまに、本当にたまに弟が訪ねて来るようになったのは。  なんでも、この部屋は“昔”つまりは、前世を思い出すかららしい。  だから、唯一この部屋に入れられるのは弟だけだ。他には恥ずかしくて誰も呼べやしない。呼ぶ気もないが。   「はぁっ」  こんな小さな部屋だ。  いくら無料で貸し出しされていても、住んでいるのは俺くらいなものらしい。  そりゃあそうだろ。これじゃ、ろくに日常生活が送れやしないのだから。 ただ、そのお陰と言っては何だがシャワー室や炊事場と言った建物全体での共有スペースに関しては全て俺一人で使う事が出来る。驚くほど古くてすぐにガタの来るソレらだが、まぁ、贅沢は言えない。 「ほんと、早く金貯めないとな」  靴を玄関先で脱いだり、床で寝たり、何もないこの部屋はつまらない。 つまらない為、俺は毎晩のように酒場渡り歩く。この部屋には基本的に寝に帰るだけだ。  ちなみに、酒場代は将来の為の研究費用として、無駄遣いには換算されないルールなので大丈夫だ。  休日の昼間、特にする事のない俺はダララダと布団にくるまる。くるまって、ゴロゴロしているといつの間にか眠気が襲ってきた。  暇を持て余していた俺は、そのまま気持ちよく眠りについたのであった。

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