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第63話
「っぁ……!」
掠れた声が艶を含んでひびく。
宮下の切羽詰まった声が好きだった。その声を聞いていると、ぐずぐずと理性がくずれていく気がする。
「……きょーへー…さ、んっ」
名前を呼ばれるとだらだらと身体が溶けていくみたいな気がする。
尻の状況的に普通に挿れたらあとで大変になるかもしれないのはわかっていたけれど。
……だからって止められたら苦労はないわけで。
頭の中はさっきの快感を引きずったままで、胎の真ん中が疼いていた。何も考えられない、と思うのは言い訳だってわかっている。
今は主導権は俺が握っていて、余裕がないってわけじゃない。だけど、いいだろ?って、やっちゃえばいいじゃん、ていう声が聞こえる。
まあつまりは、何だかんだ言ったって挿入されるのが好きなんだ。
単純に気持ちいいっていうのもあるけど、繋がっている、っていうその事実が。それだけで身体がいっぱいいっぱいになって、何にも考えられなくなるみたいに追い詰められるのが。
性欲のはけ口じゃなくて、愛情の紡ぎ方みたいな。俺の中が宮下でいっぱいになるのが嬉しくて、愛しくて、何にも考えられないけど、大好きだって思う。
それを何度だって確認したい。
も、やめて、という唇をキスして塞ぐ。
さっきの射精を伴わない軽い絶頂が後を引きずっていた。軽く何度も唇を合わせているだけでぞわぞわして、愛しさが増していくのが不思議だ。
ね、と開いた口に、口を合わせて舌を差し込む。そこまでされると、されるがままだった宮下が舌を絡めて吸い上げた。そうされると、背筋から指先までがぞわぞわとふるえる。
宮下の手が背中に回されて、抱き締められた。単純なその動きで、身体が愛情に浸されていく。
泣きたくなるみたいな、しあわせ。
なのに、もっと、もっとって繋がりたくて、宮下でいっぱいになりたくて、貪欲になって……。
「……いれたい」
ポツリと言われて、うん、と頷いた。
「やだって、言ってくんないと……、止めらんないです…」
欲望を抑えた声が可愛くて、自然に顔が笑ってしまう。
「……いいよ、止めなくても」
「また、そーゆー……。つらくさせるの、嫌なんですよ」
「もう、前みたいにはならないって」
「なるかも知れないでしょ」
我慢しようとする宮下の性器は言葉と裏腹に硬く滾っていて、つるつるになった股をこすりつけて扱いてやる。
うっ、とわかりやすく宮下が呻いて、もう、と怒る。
我慢なんてできないって、喰らいついてくれると嬉しいだなんて、俺のわがままなんだけれど、でもやっぱりそれが嬉しいんだから仕方ない。
以前もそれが嬉しくて、際限なくやりすぎてちょっと大変なことになった。尻で受け入れることにも慣れて、挿入が身体だけじゃなくて、自然に心でも受け入れられるようになった頃のことだ。
大変といってもただの痔なんだけど、痔を甘く見たらいけないと、その時に身をもって知った。
尻の穴が腫れている、それだけで性生活だけじゃなくて、生活の全部がままならなくなる。
食ったら出るのかと思ったら食事も怖いし、座るのも痛いし、力仕事も怖いし、歩くのだってぎこちなくなるし。その時は幸いにして出血は少なくて、ケアしながら少し休んだら落ち着いたけれど、あの時にくれぐれも無理は禁物だと学んだ。
けれどそれは、俺よりも宮下に強烈な教訓になったらしい。
おかげでそれまではどこでもいつでもがっついてきたのに、それ以降は我慢を覚えて余裕のある時しかしなくなった。
それがちょっと寂しくてたまには無理させて欲しいだなんて、自分勝手ではあるんだけど。
「……なぁ、挿れない?」
「後でつらいの、梗平さんでしょ」
「今、つらいし」
「~~……! なんで、そういうこと言うんですか。我慢してるのに」
「でも、おっきくなっただろ?」
股の間に挟まれて、ひく、とひくつく性器を意識させるように腰を動かした。
「なりますよ、そりゃ。若いですし!」
「だろ? 我慢しなくていいって。ゆっくりすれば大丈夫だから」
「……梗平さんて、なんかいろいろギャップがすごいっていうか……。なんでそんなこと言うんですか」
むくれたみたいな宮下の物言いに、ついつい笑ってしまう。
「さっきまで、恥ずかしがってませんでした?」
「……ん、そうだっけ?」
そうとぼけてキス。
そういえば、主導権を握ったとたん恥ずかしさが減った気はする。なんいてうか、スイッチが入ったみたいなそんな感じがする。
まあでも、そういうのだってきっと飽きないためには必要なはずで、といっても当分飽きそうにはないけれど。
「な、挿れない? ……胎ん中、欲しいって言ってる」
股の下で、ごりと音がしそうなほどこすって、ねだる。
「奎吾」
「…………」
身体は挿れたいと主張しているのに、うんと言わない宮下に焦れる。その優しさも好きだけど……。
「じゃあ、動かないでイクやつ、やってみる?」
「……なんですか、それ」
「言葉どおり、挿れるだけ。動かすのはナシ。その代わり胎ん中動かしたり、締めたりすんの」
食いついてきた宮下に簡単に説明する。
「それ、つらそうなんですけど。絶対動きたくなりそう……」
「うまくできるかわかんないけど、案外気持ちいいかもよ。やる?」
そう言いながら、自分の手を後ろに回す。ちょうどよくローションで滑ったままの指を、少しだけふっくらとした後ろに挿しこんで穴を拡げる。すんなりと一本の指をのみこんで、そのまま性急に二本目の指も挿しこんだ。
ぐちゅ、と音がして息が詰まる。はぁ、と息を吐いた俺を、宮下が食い入るように見つめていて、少しだけ恥ずかしくなる。けれど、見られていることに興奮もあった。
「んっ……」
わざとってわけではないけれど、意識して声をあげる。声に合わせてひくりと動いた宮下の性器に、ぞくぞくした。自分の姿が宮下を煽るっていう、それに興奮する。
腰をあげて、二人の間に挟まれていた宮下の性器を解放する、と同時にいつの間にか元気になっていた俺の性器も解放された。
するすると宮下の腹をさすって、腰をあげ興奮した宮下の性器にもう一度ローションをたっぷりと絡めて支えた。それを後孔にあてがいゆっくりと腰を落として受け入れていく。
慣れたその動作なのに、なぜだかそれは毎回妙に真剣になる。気持ち良さよりも、繋がってゆく感覚に支配される。
ん、ん、と息を詰めて揺らしながら、ゆっくり宮下と繋がった。
さいごまで、ぐっと押し込んで、尻の下で下生えの感触を感じると、それだけで身体をふるわす快感があった。
それは俺だけでなく宮下も一緒で、はぁ……、と快感の息をもらす。
「どう? ぜんぶ、入ったよ」
俺の言葉に、繋げたままの腰を宮下が揺する。
「んっ、動くのは……」
「なし、なんですよね。わかってます、ちょっと揺らすだけ」
そういって、奥まで挿った腰をさらに押し付ける。それだけで中の圧迫感がぐ、と強くなり、呻き声が出た。ひくひくと胎の中が動いて、めいっぱいまで拡がった後孔がぎゅっと宮下を締め付ける。
「……ぁ」
おもわず、と漏れた宮下の声に、ぞくぞくと背筋がふるえた。
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