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22. 夢中にさせて (2/3)
「樹生さん、先にベッドに行ってて」
翔琉は引き締まった尻を見せながら、玄関に放り投げられた自分のバッグに向かう。何を取り出そうとしているか想像し、樹生は頬を染める。自分のベッドには必要なものは揃っているが、彼が持ってきてくれた気遣いが嬉しかった。よく考えたら、元カレとの時に買ったものを使い回すなんて、あまりに無神経だ。もし自分が逆の立場だったら絶対嫌だ。使い掛けのローションやスキンは、翔琉が帰ったらすぐにでも捨てようと樹生は決意した。
樹生の隣に腰掛け、翔琉はローションのパッケージを破る。蓋を開けて液体を手に取り、軽く眉をひそめた。意外と冷たいなぁ、あっためたほうが良いかも、と独り言のように呟いて両の掌を合わせて温める。
普段の翔琉は、まだ着ていない服と汚れた服を分けもせずにバッグに突っ込む大雑把な男なのに。こういう細やかさをベッドでは発揮するなんて意外だ。
「あ、やべ。先にこれ出しちゃった」
ローションを纏 った両手を前に困った表情を浮かべた翔琉が可愛くて、樹生は、彼の首に腕を回し、自分の背を下に、彼を抱き寄せながらベッドに横たわる。翔琉の指が背後の窄まりに当てられる。バスルームでさんざんほぐされ、滑りが加わり、そこは、すんなり翔琉の指を飲み込んだ。様子を確かめ、ローションを行き渡らせようとするかのように、翔琉の指は、奥から手前へと、そして様々な角度で内壁をなぞる。円を描くように指を動かして入口を広げられ、二本目の指が入る。樹生は大きく息をついた。
「大丈夫? 痛くない?」
「きもちい」
甘えた樹生の声に、少し緊張気味だった翔琉の頬が緩む。中で指を曲げるように動かされる。彼の指先が、樹生の敏感なところを探り当てた。
「あっ。はあ……っ!」
頬を赤らめ、潤んだ瞳をとろんとさせ、身体をくねらせる艶めかしい樹生の姿態に、翔琉の目は再び獲物を前にしたように光る。優しく、繰り返しそこで指を行き来され、快感に次第に喘ぎ声が大きくなる。今や翔琉の太い指を三本も飲み込んでいる自分の後孔の欲深さを一瞬恥じたが、この後に受け入れる翔琉の剛直を思い出す。
(むしろ、これくらい慣らしておかないと厳しいよな)
きゅんとお腹の奥が切なく熱く疼く。翔琉が物言いたげに、真剣な表情で樹生を見入る。
「樹生さん。俺の、挿れても良い?」
「……ん。来て」
ベッドに転がしてあるクッションを手に取り、これ使って良い? と目で確認して、テキパキと樹生の腰を持ち上げる。そして慣れた様子でスキンを装着する。手際よく事を進める翔琉に、思わず樹生は尋ねてしまう。
「あの、無粋 だけど一つ聞いて良い? 翔琉、男とは初めてだよね?」
「初めてだけど。なんか変なことした? 俺」
「ううん。スムーズ過ぎてびっくりしたんだ」
「予習はしてきたよ、ネットで。……アイツのほうが良かったとか思われたくない」
憮然とする翔琉に、樹生はクスクス笑う。
「笑うなよ。こっちは真剣なんだから」
拗ねたように口を尖らせた翔琉は、仰向けに横たわる樹生に体重を掛けないようにのしかかり、噛み付くように樹生の唇に口付ける。その大きな背中に手を回し、樹生は翔琉に囁きかけた。
「翔琉、好きだよ。ねえ、早く……」
おねだりは、てきめんに効果があった。翔琉はすぐさま自分自身を樹生の蕾に宛 がった。
「あっ」
樹生の初々しい窄まりは、思ったよりすんなりと翔琉の昂りを受け入れた。しかし、奥へと押し入って来るにつれ、未知の圧迫感で樹生を怯(ひる)ませる。
「翔琉、おっきい……。はあっ、ごめん、ちょっと怖い……。ゆっくりして?」
身体に力が入らないように、意識して息を吐くが、緊張で身体も呼吸も震える。思わず翔琉にしがみついてしまう。
「大丈夫だよ。慣れるまで、このままでいる」
樹生の頬や額に口付け、甘い声で囁きかける翔琉は、目尻を下げて微笑んでいる。
「なんか嬉しそうだね」
「だって、『大きくて、ちょっと怖い』なんて、好きな人と初めて抱き合ってる時に言われたら堪んないよ」
「……バカ。僕のお尻が切れたり裂けたりしたら、どうしてくれるんだ」
不貞腐れたように口を尖らせるが、樹生が照れているだけなのは、翔琉にはお見通しだ。
「好きだ……」
愛撫のような深いキスで樹生を蕩けさせ、翔琉は何度か小刻みに腰を前後した。それだけで、翔琉は切なげに呻き声をあげている。
「……やば。俺、もうイキそう」
「良いよ、イって? 僕の身体で気持ち良くなってくれて嬉しい」
「ごめん。二回目はもっとちゃんとするから。もし痛かったり嫌な感じがあったら、すぐ教えて」
翔琉は細かく腰を律動し始めた。
「あぁ……やっぱダメだ、ごめん樹生」
呻きながら激しく腰を数度振ると、本能的に少しでも奥へと深く打ち付けながら翔琉は達した。そして脱力して、樹生に覆い被さる。
「ごめん」
「謝らないで? あんなラフプレイで削られた試合の直後で、気も立ってただろうし」
樹生は優しく翔琉の髪を撫でた。スポーツ選手の性欲は旺盛だが、比較的一回が短い傾向があると聞く。少しでも早くゴールをという闘争心が、愛する相手に早く種を付けたいという欲求に転化するのだろうか。絶対口にはできないが、元カレの三芳もかなり早漏だったから、樹生は気に留めていなかった。
それより、彼の愛情表現が嬉しかった。自分への熱情をありありと目に浮かべ、唇や身体にたくさん口付けてくれたことや、樹生がリラックスできるように、わざと笑わせ、表情や身体の反応を窺うと共に、痛くないかと気遣い、優しく大切に扱ってくれたことが。これまで同性と愛し合う経験が無かったにもかかわらず、躊躇 なく抱き締めてくれたのも。
精神的にも満たされ、幸せな気分で身を委ねていると、翔琉は身体を起こし、無言で自分自身を樹生の蕾から引き抜く。スキンを抜き取り、口を縛ってゴミ袋に捨てている彼の姿を見遣り、樹生は我が目を疑った。翔琉は、再び屹立し始めている。樹生の渡したおしぼりで局所を拭くと、彼はおもむろに二つ目のスキンを手にしている。
「あんなんじゃ全然足りないよね? 次は、樹生をイカせるから」
「翔琉、タフだね。こんなにすぐ復活するんだ。……いつもは、一晩でどのくらいするの?」
「体調悪くなければ、結構すぐ二回目いけるよ。回数とか時間は、体調と気分によるけど。休み休みで良ければ、朝まででも」
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