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【2】04

更衣室に移動し、ゼッケンの確認などマネージャーのような仕事をこなしているとき、ふいに黒部が口を開いた。 「伊勢さんと高岡さんってどういうつながりがあるんですか?」 「え!?」 何気ない聞き方だったのに、俺は十分に不自然な返事をしてしまった。いちど咳きこみ、飛び出した平常心をどうにか引き戻す。 「あー……なんだっけな、最初は飲み会かなんかで会ったから、あんまつながりとかないんだよな」 「そうなんですか? でもすげー仲良さそうですよね」 「いっやー、そんなことないよ。あんま頻繁に遊んだりするわけじゃないし、つーかぜんぜん遊んだことないかも。俺高岡さんのことなんも知らないしなー」 「……仲良くないのに試合見に来るんすか?」 自分でもわかっているが、俺は嘘をつくのが得意でない。自分の中では完璧に道筋が立てられていても、外から見ればずいぶん分かりやすいハリボテらしい。だから早く話を逸らしたいのだが、黒部はよほどこの話題に興味があるようだ。 「わざわざ試合来るってめちゃくちゃ仲良いんじゃないですか?」 「あー、え? あーうん。なんかフットサルとかそういうの好きみたいだから、なんか、あんま仲良くねぇけど来てもらった」 「へー。サッカー好きな人は多いですけどフットサル好きってけっこうめずらしいっすよね。俺サッカー日本代表よりフットサルの代表の方が好きで。そのへんの話とかも詳しいんですかね?」 「え!? あーいや、なんか、軽く興味あるだけっぽいから、そのへんは詳しくないんじゃない?」 試合用のスポーツドリンクやタオルを用意する作業自体は難しい仕事でないのだが、精一杯「今とても集中しているので会話はおざなりですとても適当なことを口走っています」というふりをする。手元ばかりを熱心に見つめるのは、黒部に表情から見破られるのが怖いからだ。 「俺伊勢さんと高岡さんが学食で二人でメシ食ってるとことか何回か見かけたんですけど」 「あ、あぁ。あの人あんま友達いねーから俺が付き合ってるんだよ」 「へぇ、俺も高岡さんと話してみたいです」 「え? なんで?」 思わず顔を上げた。黒部は更衣室に置き去りにされたごみをかがみこんで拾っているところだった。腰を折り、長い手足を不利にしない柔軟さでつぶれたコーラの缶を拾いあげた。黒部はアルミの缶を片手でさらに小さく潰しながら、言った。 「俺高岡さんに聞きたい話いっぱいあります、先輩として」 「あー……まあ、でもあの人けっこうちゃらんぽらんだしそんなに先輩っぽくないかも」 「いや、立派な先輩ですよ。どうやったのか教えてもらわねぇと」 ぱきぱきぱき、とアルミの缶が小さくなる音にかきけされて、「立派な先輩ですよ」以降の黒部の言葉が聞きとれなかった。 「ん? ごめん、なんだって?」 「やーたいしたこと言ってないですよ」 黒部は小さくなったアルミ缶をゴミ箱に投げ入れ、くるりと振り返りこっちへ向かってきた。足取りは正確で、つよい意志のもと動かされている。いつになくシリアスな空気を感じ、黒部を見あげるとその目が深い色を持っていたのでどきりとした。はじめて黒部の長身を、威圧的だと感じた。 まっすぐに向かってきた黒部は、俺の横に腰を下ろして俺の顔をのぞきこんだ。 「今日の試合がんばりましょうね、伊勢さん!」 「え? あぁ、そうだな」 黒部は笑っていた。いつものように、かわいい後輩の表情で。シリアスじゃない、威圧的なんてとんでもない。黒部はかわいい後輩だ。俺は自分に言い聞かせた。そう、かわいい後輩だから、いつの間にか妙に距離が近くなっていたって、全然いやじゃあないのだ。

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