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第1話
昔から兄の存在が目障りだった。たかだか二年、たった二年早く産まれただけのくせに偉そうな兄が。
俺と正反対の兄。性格悪いくせに人前では猫被ってるお陰で人を見る目がないやつらは『いい子』だなんて言ってるのだ。本当、馬鹿だ。全員死ねばいい。兄も、兄を称賛するやつらも。
文武両道、馬鹿でクソ野郎のくせにテストの点だけはいい兄に両親は手放しで兄を可愛がる。頭も悪く人前でろくに喋ることもできない俺は人前に出すことも恥ずかしい失敗作らしい。
いつからだろうか、俺の居場所がなくなったのは。
家族なんて血の繋がっただけの他人だ。顔を合わせるのも嫌で、高校にも行かなくなった俺は日中部屋に篭もっていた。
起きるのは夕暮れ時、そして寝るのは他のやつらが活動し始める朝方だった。
部屋に閉じこもってひたすらネットをする。どうせこのまま死ぬのだろう。どうだっていい。寧ろさっさと死にたさすらあったが、俺はどうしても痛いことだけは駄目だった。……そんな自分も、なにもかも嫌いだった。
そして今日も家族が寝静まった頃合いに飯を食おうと一階へと降りる。なるべく物音を立てないように、日持ちがよくて食えそうなものを掻払って部屋へと帰ろうとしたときだった。
玄関口から物音が聞こえてきた。
咄嗟に冷蔵庫の扉を閉じ、慌てて部屋へと戻ろうと階段を登ろうとしたときだった。抱えていたカップ麺がコロコロと落ち、それを拾い上げようと腰を屈めば日頃の運動不足がたたったようだ。腕の中のものを全て落としてしまう。
――最悪だ。
昔からだ。俺は鈍臭く、何をやっても上手く行かなかった。こんな時間に帰ってくるやつなんて一人しかいない。早くこの場を離れたくて、泣きそうになりながらも落ちた食糧たちを拾い上げ用としたときだった。
ドスドスと乱暴な足音が近づいてくる。焦りと恐怖で強い尿意が込み上げてきた矢先だった。
「……なんだ、|倫冶《りんや》お前まだ起きてたのか」
「っ、――!!」
見たくもない顔があった。
兄――|彪十《あやと》は俺の顔を見るなり人を小馬鹿にしたように笑うのだ。
今日は新しくできた女のところに泊まるっていうから油断してただけに、よりによってこんな場面に出くわすなんて。
兄と俺は全く似ていない。顔も、声も、体格も、なにもかも。俺が欲しかったものを全て兄が手に入れた。整った顔も、恵まれた体格も。だからこそ俺は兄と並ぶのが嫌で、視界にも入れたくなかった。
兄から逃げるよう、落ちたなんこかのお菓子を無視して一気に階段を駆け上がろうとすれば伸びてきた腕に「待てよ」と首根っこを掴まれる。
締まる首元。バランスを崩し、足元が滑りそうになる。心臓が止まりそうになるのも束の間、「離せよ!」と慌てて腕をがむしゃらに振り回して逃げようとするが兄は怯むどころか子供を相手にするように「おい、でけー声出すなよ」と宥めてくるのだ。兄の顔が近付き、その酒の匂いに思わず顔を顰める。
「丁度良かった。ちょっと付き合えよ、倫冶」
何をなんて、聞かずとも兄の言葉の意味がわかった。スウェット越し、ジーンズの上からでも分かるくらい固くなった兄のものを押し付けられ全身が凍りつく。
酒を飲んでるのか。最悪だ。親父に見つかって殺されろ。そう思うのに、兄に見つめられると背筋が凍りつく。足元が竦む。それでも、嫌だ。
「っ、いや、だ……」
そう、精一杯の抵抗で声を振り絞れば瞬間、腹に兄の拳がめり込む。臓器を押し上げられ、さっきまで飲んでいたオレンジジュースが逆流しそうになって咄嗟に口を抑えたとき。兄はそのまま俺の肩に腕を回し、笑うのだ。
「倫冶。俺今すげー気分いいんだよな。わかるだろ?」
「……っ、ぅ゛、え゛……」
「お前がいい子にしてたらお兄ちゃんがいいもんやるよ」
そう笑いながら今度はケツを乱暴に掴まれる。布越しにケツの割れ目に指を這わされ、血の気が引いた。「な?」と囁きかけられる。自分がどんな反応したのかすらもわからない。
落ちた菓子を拾った兄はそれを俺の腕に戻し、そのまま上機嫌に鼻歌を歌いながら自分の部屋と向かうのだ。
――最悪だ。最悪だ。最悪だ。
逃げることもできた。自分の部屋にさえ飛び込んで鍵を掛ければいい。けれど、肩を掴む兄の指はちょっとやそっとじゃ離れそうにない。そもそも俺の力と足では兄から逃げることすらも不可能だろう。
――兄の部屋。
俺は兄の部屋に来たことは初めてではない。昔は毎日のように入り浸っていた。
けれど物心をついてから兄と話すことがなくなり、全く足を踏み入れることはなかったのだが――こうして最近また兄の部屋に足を踏み込むようになったのだ。
きっかけなど、思い出したくもない。
「っ、ぁ゛……っ、ふ……っ」
枕にしがみつき、顔を埋める。背後から覆い被さってくる兄に腰を掴まれ、ひたすら女のように犯されるのだ。
ここ一週間、ほぼ毎日兄に犯されてきたアナルは初めて兄に無理矢理犯されたときに比べてすんなりと受け入れるようになっていた。それが嫌で、嫌で、泣きたいのにそれとは裏腹に兄の太く勃起したペニスで乱暴に犯されるだけであっという間に何も考えられなくなる。
「……っ、倫冶、お前また痩せたな。いい加減もっと食えよ、抱き心地最悪なんだよお前」
「……っ、ご、め゛っ、んなざ……ぁ゛っ、い、そ、ご……っ、ぉ゛……ッ」
「代わりに感度いいのはいいけど、こんな貧相な胸の感度よくてもなぁ?」
「ッ、ひ、ぅ」
腰を掴んでいた兄の分厚い掌が胸を這う。そのまま尖った乳首をぎゅうっと抓られれば、挿入されていた下腹部に力が篭もった。
「っ、ぁ、あ……ッ」
「あ、倫冶君ここ弄られながら犯されるの好きなんだ?……っ、すげー締りよくなった」
「ッ、ち、が」
「違わねえだろ」
伸びるほど引っ張られたと思えば、今度は円を描くように優しく撫でられる。雑で乱暴な愛撫なのに、兄の愛撫に慣れた体はその指の動きだけで全神経が乱される。食いしばった歯の奥。たらりと涎が溢れ、枕にしがみついた。
「っ、ふーッ、……ぅ、ふ……ッ!」
「……ッ、は、かわいーなあ倫冶……」
「ッ、……ッ!!」
酔っている兄はしつこい。
枕に顔を埋めた俺の背中、くっつくようにベッドへと腕をついた兄。その拍子に更に奥まで太い性器が刺さり、堪らず跳ね上がる。そんな俺を押し潰すよう、短いストロークで体重を掛けるようにずんずんと奥へ奥へと亀頭でキスしてくるのだ。
口を開けば悲鳴が出てきそうで怖かった。俺は堪えるように枕に爪を立てる。
兄はそんな俺の項に唇を押し付け、そして吸い付くのだ。
「っ、ぅ……ッ、ふ……ぅ……ッ!」
兄弟でこんなの頭がおかしい。正気の沙汰ではない。分かっている。わかってる。おかしいのは兄だ。知っている。だから俺はおかしくはない。おかしいのはこいつだけで。
「ッ、ぁー……ッ、そろそろでそう」
「っ、っふ、ぅ゛……ッ!」
「っ、倫冶ァ、逃げんなよ。お兄ちゃんの精子、ちゃんと奥まで飲めよ、なあ」
手首を掴まれ、頭を枕へと押し付けられる。息苦しさに耐えきれず、腰が浮く。兄はそんな俺の下腹部をがっちりと掴んだまま、更に激しく腰を打つのだ。
そして俺の視界が白く染まるのとほぼ同時に熱が膨れ上がり、溢れ出した。腹の奥、注がれる精液の感触に胃が満たされていく。動くことなどできなかった。兄の荒い呼吸を聞きながら、俺は視界が狭まっていくのを感じた。
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