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第15話
兄弟の中で唯一、色素の薄い髪をしている朝儀は、瞳も茶色だ。この土地には、茶目と称される、こうした色彩の人間が時々生まれる。斗望もそうだ。
少しだけ目が細い兄は、更にそれを細めて優しく微笑すると、踵を返した。
靴を脱いで中へと入り、真っ直ぐに居間に向かうと、料理の数々が並んでいた。
斗望もいる。
「享夜くん! ゲームしよう!」
「おう」
俺は懐いてくれる斗望の柔らかな髪を撫でた。本当に可愛い。マッサージ店のローラが、マッサージ的天使とするならば、俺の人生の天使は、この甥っ子だ。なお、ゲームというのは、最近小学校で流行っているという、『黄色ピエロ』というカードを用いたポータブルゲーム機(?)の代物だ。俺の知るテレビゲームとは、今はもう時代が違う。
そもそも俺が小さい頃は、ゲームをすると頭が悪くなると言われていた。勉強もできないとか。だが、最近では、ゲームをする子供の方が、勉強が出来るなんていうニュースを見た記憶もある。ただ、それが理由ではなく、朝儀は、比較的緩やかに子育てをしているらしい。長兄は、俺に限らず、子供にも昼威にも、等しく優しい。
和食メインの夕食を終えて、その後、ゲームをして寝た。
翌朝も和食。朝儀が作る料理は和食が多く、中でもヒジキが絶品だ。
そして本日の土曜日も出かけていく朝儀を見送ってから、俺は宿題を始めた斗望を見た。
「学校は、どうだ?」
「うん……」
「どうかしたのか?」
俺の言葉に、斗望の表情が曇ったため、思わず首を傾げた。
「あのね、芹夏くんっていう、一年生から今までクラスが一緒だった友達がいるんだけど……学校にね、来なくなっちゃったんだ」
「理由は?」
「最初はね、元々お父さんがいなくて、それで――去年お母さんも死んじゃって、僕より親の数が少なくてゼロ人なんだけど……お祖父ちゃんの家に引っ越す事になったから、落ち着くまでお休みだって聞いてたんだよ」
「大変なんだな……」
「うん。可哀想だよ。だけど……もうすぐ夏休みでしょう? 後、何日かしたら、もうお休みなんだけど……芹夏くん、去年の夏休みのちょっと前から学校に来てないから、もう……ぴったり一年だ」
「それは心配だな……」
悲しげな斗望の頭を撫でながら、小学生にも苦労が多いんだなと、俺はしんみりした。それから気を取り直すように、俺はかろうじて理解できる社会を教えて、宿題をしながら、時が過ぎていった。
よくある週末の一風景だった。
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