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第43話

 お化け屋敷――と、して、彼が思い描いているのは、完全に民家だったからだ。  笑った。リアルお化け屋敷らしい。夏瑪先生が言っていた、霊障を広げている原因の家に、明後日彼は、他集団と除霊に行き、一夜を過ごすはめになったようだった。  強気に見える藍円寺さんだが、内心では、ガクブルなのが分かる。  怖くて怖くて仕方が無いらしく、縋る思いで本日は、ここへやって来たらしい。  ローラの服をちょっと掴むだけでも、恐怖が和らぐ気がすると、彼は思考している。 「折角の常連さんのお誘いですしね……店の時間ではありますが……行こうか、砂鳥?」 「へ? あ、うん。そ、そうだね、ローラ。藍円寺さんは、よく来て下さるし!」  僕が同意すると、ローラが笑顔で大きく頷いた。  藍円寺さんは胸中で――店の時間なのに、本当に申し訳ない――と、考えているようだった。それにしてもデートじゃないのかぁ。そう思えば、なんだかローラがちょっと哀れだ。彼だって、期待していなかったわけじゃないと感じるのだから。  こうして――僕達は、それから三日後、南通りの地蔵前へと向かう事になった。  当日は、二人組~十人組までの、班で来ている人々が――班で数えると七班、個人で……つまり一人で来ている人々が、十数名いた。僕は彼らを眺めて、藍円寺さんよりも強い霊能力者を探してみた。うーん。お祓いに集まっているのだろうが、藍円寺さんよりもローラの食欲をそそりそうな人間はゼロである。まぁ、手続きを踏み、正しく行えば、正直力が無くても、一定の結界程度ならば、人間は構築可能だ。ただ単純に、そのクオリティだと、僕やローラ、火朽さんなんかにとっては、無いに等しいというだけである。  それよりも僕は――紺色の僧侶服に、錦の袈裟をつけている藍円寺さんを見る方が楽しかった。ローラもそちらに舌なめずりをしている。何とも本日の藍円寺さんは、艶っぽい。和服って良いなぁ……と、僕はフェチズムに目覚めかけた。漆黒の切れ長の瞳が、白い肌の中で、ある種の畏怖をもたらすように煌めいている。見る者に、その存在だけで、霊が消えていくような錯覚を呼び起こし、霊に対する恐怖など微塵もないような顔をしている藍円寺さん――だが、内心の恐怖心を読み取って、僕は哀れになり、不憫だなぁと思った。  待ち合わせの三時から三十分ほど過ぎた所で、移動開始となり、僕達は四時手前に、お化け屋敷の前へと到着した。既に周囲は薄闇に包まれている。昼間に来なかったわけではなくて、昼間から彼らは何やら作業をしていたようなのだが、泊まり込み組が、徹夜時間を考慮して、遅い時刻に集合だったらしい。僕とローラは、泊まりだとも徹夜だとも聞いていなかったが……まぁ、良いか。僕達妖怪は、睡眠をとれるが、それも娯楽だ。  こんな風に、僕達のお化け屋敷での一幕が開始されたのである。

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