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第5話
風呂から上がり体を拭いて、店長に借りた服を着て居間に向かう。
店長は暖房を付けて毛布を準備し、おまけにコーヒーまで用意してくれていた。
「ありがとうございました。………ほら、おまえも。」
「……ぁ、ありがとうございました……。」
青年が小さな声で店長に礼を言う。
店長は青年の体を上から下まで見て、俺の方を見る。
「こいつ、本当に男だった?」
「あ?男だったけど。」
「へぇ。まじで男には見えねぇな。」
たしかに青年は、男か疑うレベルに細くて小さい。
身長は俺が185cmだから……、165cmくらいか?
手足も細くて、肩幅も腰回りも女みたいだ。
実際店長が用意してくれていた服、ズボンは履いてもズレて意味がないから、上だけ羽織ってパーカーワンピみたいになっている。
肩から毛布を掛けてやり、椅子に座らせた。
「で、名前は?」
「……………零、月城 零 です……。」
青年は零というらしい。
なんとも、見た目通りというか、儚い名前だ。
「俺は水瀬 檸檬。で、こっちが俺のバイト先の店長の泰 さん。」
「檸檬さん、泰さん、……ありがとうございました。」
零はぺこりと頭を下げた。
捨てられたのかホームレスなのか定かではないが、一応ある程度の常識はありそうだ。
「歳は?」
「………19…です…。」
「へぇ、見えねぇな。家は?」
「高校卒業と同時に飛び出して…、今はないです……。」
「卒業してからこの1年、どうしてた?」
「……………。」
店長に質問攻めにあい、零は突然言葉を濁した。
零が今までどこで暮らしていたか、そしてなぜこんな状況で外にいたかなんて、最悪の想定くらい俺にでもつく。
「売春か?」
「…………。」
「まぁそのナリじゃな。」
「………ごめんなさい。」
零は俯いたまま謝った。
声は少し震えている。
「俺に謝るこたねぇけど。親の電話、教えな。」
「えっ……」
「今の奴には捨てられたんだろ?そもそも未成年の売春、見て見ぬ振りはできねぇし、親に連絡するのが手っ取り早い。」
「やめてっ!お願い…、それだけは……」
「おい……。」
零は立ち上がって、ぽろぽろ涙を溢しながら店長に縋った。
そうだ、売春なんてよくない。
店長の言う通りだ。
なのに、口から出たのは別の言葉。
「店長、やめてあげてください。」
「はぁ?」
「嫌がってるじゃん…。」
「じゃあどうすんの?こいつ、放っといたらまた売春するか野垂れ死ぬかの二択だぞ。」
俺は何故、あんなことを口にしたんだろう。
「俺が預かります。」
その一言で、俺と零の不思議な共同生活が始まった。
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