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第4話 後悔に溺れる(4/10)

雄の匂いに誘われるように、俺は、立ち上がりかけているルスのそれを布越しに撫でる。 ルスは小さく肩を震わせただけで、やはり何も言わなかった。 どくんと胸が鳴る。 高まる期待に、俺の下腹部に熱が集まる。 布越しに擦れば、ルスのそれはクッキリと力強く立ち上がった。 濃い色の下着に、じわりと小さな染みができる。 それがたまらなく嬉しくて、俺は布越しに口付けた。 「っ……、お前……何、を……」 ルスの戸惑う声がする。 でもこれは、否定では無いな。と判断したのは心だったのか、頭か。 下着の中では苦しそうなそれを、俺はそっと外へ出してやる。 「レイっ、何する気……」 焦りを浮かべる親友の唇を、指先でそっと撫でる。 ルスは真っ赤な顔のまま、息を詰めた。 ああ、困惑している顔も、可愛いな。 俺はふわふわした頭のまま、囁いた。 「いくらでも、触っていいんだろ?」 「っ、それは、傷の話で……」 拒絶の言葉に、思わず視界が滲む。 ダメなのか……。 ……やっぱり、俺では、ダメなのか……。 「……俺の事、慰めてくれよ……」 「……っ!」 どうか、俺を……、俺を受け入れてほしい。 悲しみを隠し切れず縋り付くと、ルスは動揺した。 結局俺は、団長の言った通り、ルスの情に訴えていた。 「お前、言ったよな。俺のためなら、何だってするって……」 俺の言葉に、ルスは顔色を変える。 「……ああ……」 その言葉は、暗い覚悟とともに吐き出された。 やってしまった。 これは禁じ手だったはずだ。 こんな風に言われれば、ルスは断れない奴だと分かっていたのに。 こんなのは同意じゃない。ただの脅しだ。 「じ、冗談だよ、冗談っ!!」 叫ぶように言って、俺は布団を掴んで頭からかぶると、ルスに背を向けてベッドに寝転んだ。 これ以上ルスを見ていたら、とても冗談にはできそうにない。 脅してでも、無理矢理でも、襲ってしまいそうな自分が怖かった。 しんと静まり返る室内に、時計の音だけがコチコチと響く。 「なあ、レインズ……」 ぽつりと落とされたルスの言葉に、俺の心臓が跳ねる。 なんて言われるのか、まるで予想ができない。 もう友達じゃ無いとか言われた日には、俺は明日を生きる自信がない。 「……お前は、俺の何なんだ?」 「え……?」 問われて、思わず振り返る。 ルスは真っ直ぐに俺を見ていた。 ほんの少し前なら、笑って親友だと答えられた。 けど、今はどうだ。 これでもまだ、俺はお前の親友だと、言ってもいいんだろうか。 言葉に詰まる俺に、ルスはなんとも言えない寂しそうな顔をした。 それは、長年の親友を失ってしまった男の顔だった。 「っ違う! 違うんだ! 俺は、お前を騙してたわけじゃなくて……」 口に出して、ようやく気付いた。 俺はずっと、こいつを騙していたんだと。 そして、目の前の男は、それに深く傷付いているのだ。と。 求められているのは『親友だ』なんて嘘じゃない。 俺の、本当の気持ちなんだ……。 涙が零れる。 これは、後悔の涙なのか、懺悔の涙か。 どうしようもなくて震える俺を、ルスはその胸に抱き寄せた。 温かい……。 ルスの胸も、腕も、温かくて。俺は、初めてルスと握手を交わした日の事を思う。あの日のまま、ずっと……、ずっと変わらずにいられたら良かったのに。 ルスは俺と同じ酒くさい息で、それでも優しく、囁いた。 「困った時には何でも言ってくれと、言っただろう?」 ああ、そうだった。 確かにそう言われていた。 けど俺は、俺が困っていた事に、ずっと気付けないでいた。 「ルスが……。ルスがちゃんと幸せになって、俺なんか、もう要らないって、言ってくれたら、良かったんだよ……」 俺は、ルストックが幸せなら、それでよかったのに。 お前が笑ってくれるなら、彼女作る手伝いだって、結婚式のスピーチだって、胃薬飲みながらやったってのに。 俺がどんだけ、嫉妬に胃ひっくり返して嘔吐繰り返しながら、二次会まで付き合ったと思ってんだよ。 「なんで、幸せになってくれなかったんだよ……」 絞り出すような俺の言葉に、ルスはキョトンとした顔で返す。 「俺は十分、幸せだと思って生きてるが?」 「はぁぁぁぁぁあああ??」 「心外だな。レイは俺のどこが不幸に見えるんだ?」 不服そうに口を尖らせてる顔が可愛い。いや違う。そうじゃなくて。え、なんだお前、そんななりで幸せいっぱいだって言ってんのか?? 「だってお前……、故郷潰されて……」 「王都の孤児院に拾われたおかげで、剣も学べたし、教育も受けられたよ」 「奥さんも息子も食われて……」 「自棄になってた俺を、助けてくれたのはお前だろ?」 「足だって動かなくなって……」 「そうだな、これはちょっと、一人では生活し辛いな。だが不幸というほどのことでも無いだろう」 茶色がかった黒髪の男は、前に落ちてきた髪を後ろへ撫で付けながら、笑って答えた。 ああ。やっぱりこいつは、強くて、優しくて、たまらなく凛々しいと思う。 「………………お前……」 「なんだ?」 「ほんっっっと強いな……」 「はは。そう見えるか?」 俺の思ったままの呟きに、ルスは目を細めた。 「俺が折れずにいられたのは、お前がいつも傍にいてくれるからだ」 「へ……?」 不意打ちに、情けない声しか出なかった。 ルスの真摯な眼差しが、まっすぐ俺を見つめている。 俺は顔が熱くなるのを止められない。 「お前がいつだって、俺を支えてくれた。俺の悲しみを半分に、喜びを倍にしてくれたのは、いつもお前だろう?」 「そ……ん、な……」 そんな風に、してやりたいとは思っていた。 いつだって支えたいと願っていたし、これからだって、俺は、許されるのなら、お前の足になりたいと思っている。 「なあ、レイ、聞かせてくれ」 気付けば、俺の肩はどちらもルスの分厚い手に掴まれていた。 真っ直ぐ覗き込む小さな黒い瞳は、俺が答えを告げるまで、逃さないと言っているようだった。 「お前、本当は、俺のことどう思ってるんだ……?」

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