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第274話◇されて嬉しいこと
ニコニコしてる顔を見ながら、なんだろ、と考える。
恋愛、か……。
やっぱ、オレ、今までとは違うな。
告られた時、目の前の女が気に入ったら付き合って――気に入らないとこがあったら別れて。
……まあ、同時の一目惚れでもない限り、どのカップルもそうかもしれないけど、でも、オレは、適当に付き合って楽しんで、本当に好きになろうなんて特別には考えてもなかったし。なんか別れてもまた次の誰かと付き合うだろうって思ってたし――とにかくモテたから、勘違いしてたかもな……。前のオレ、詳しくは知られたくないかも。
ちょっと自分でうんざりしながら、可愛い顔でニコニコの陽斗さんを見ていると。
「陽斗さんが、されて嬉しいことって、何ですか?」
こんな質問が、自然と出るっていうのが。
多分オレ、人として進歩してるのかもしれない。
人としてかなり最低だったオレのことは、闇歴史に葬ろう。人は、進歩して、生きてくものだよな。
今ここで、オレは、陽斗さんに会えて、奇跡みたいに付き合えたんだから。
「されて嬉しいこと……」
えー何だろう、と真剣に悩んでくれる陽斗さんが可愛い。
……こんなに可愛い人だったんだなあ。
会社しか見てなかったし、オレには塩対応だったし、この人、笑わないと、綺麗だから、冷たく見えるしな。
……まあ、会社で、他の奴に見せてる笑顔は知ってたから、ちゃんと笑うってことは、知ってたけど。しかもその事実に対して、オレには笑わないっていうのがくっついてくるから、逆になんかムカムカするし。そんな感じだったけど。
――今の笑顔とか。最高可愛い。
……さっきから、可愛いしか言ってない。キモイかな。オレ。
とりあえず祥太郎に、オレの考えてることが読まれなければ、まあ、いいか。――バレたら死ぬほど笑われそう。
「されて嬉しいこと、考えるのは初めてかも」
「そうですか?」
「彼女がしてほしいこと、なんだろうって、考えたことはあるけど。自分にしてほしいことって……男だからかな。こっちがしてあげなきゃって、なってたのかなあ」
そんなことを言って、ふふ、と笑ってる。
「三上も、オレにされたいこと、考えて」
「――分かりました」
質問が返ってきてしまった。
されて嬉しいこと。
――彼女がしてほしいこと、考えた、か。
優しい先輩、らしいなあ。先輩は、なんだかんだ言っても、付き合ってる時はちゃんと付き合ってたんだろうと思うし。
陽斗さんにされたいこと、か。
キスしてほしいとか。
……あれしてほしいとか。ああいうのもいいなとか。エロい方に思考が飛びそうになって、ふっと何だか無邪気な感じの陽斗さんの表情に、ぴた、と固まる。そういう時の、楽しそうな顔は、ほんとに幼く見える。
――ヤバい。違う違う。
「んー……なんだろ」
ごまかしてそう言いながら、健全な方で考えようと軌道修正。
何だろ。今、陽斗さんと居て、嬉しいのって――あ、分かった。
「オレは――今日陽斗さん、言ってたけど。頼ったり、甘えてほしいかも」
考えながら言ったセリフに、ふうん……と頷いてから、陽斗さんは、クスクス笑った。
「――なんか、違くない?」
「ん?」
「今考えてたのってさ、されて嬉しいこと、でしょ? オレがすることで何が嬉しいかって話でしょ?」
「……まあそうだけど」
「それだと、オレは何にもしてなくて、三上が甘やかすって話にならない?」
「――んー。そうかもだけど。じゃあ……」
「うん?」
「座ってる時とか。よっかかったり、してほしい」
「――……」
陽斗さんは、んー、と考えて。
「何か、それも、三上が支えてる方な気がするけど……」
クスクス笑いながら。
「え、オレ、寄っかかればいいの?」
「はい」
「ん。じゃあ、とりあえず、分かった。帰ったらね」
やっぱり、陽斗さんに甘えてもらうとか。付き合ってないとできない気がするから。すげー楽しみ。
「お願いします」
と言ったら、お願いされちゃった……と言って、楽しそうに笑う。じゃあ、オレは何してもらおうかなぁ、と考え始める陽斗さんに、どう我慢しても、ふ、と顔が綻ぶ。
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