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第1話
父親が完全に趣味で作った牧場を引き継いだのは、猪狩拓己 が高校卒業をした翌日だった。
名伯楽として名高い父親が経営していた猪狩牧場は、山間の私道を使わねば行くことも出来ない場所だったが、顧客も従業員も多く居た知る人ぞ知る牧場だ。
父親が私有地を開墾して情熱を注いで作りあげた牧場は、拓己が子供の頃から遊び慣れ親しんだ場所だった。
だが高校を卒業したばかりの若輩が経営するとなれば話は別だ。
そもそも父親が拓己に譲ったのは牧場の権利と、顧客や業者に繋がる太いパイプの一部のみ。
大切に育てた家畜やペット、あるいは古くから務めてくれた従業員たちは、父親がほとんどを新天地へと連れて行ってしまったのだ。
なんでも孤島を買ったから、そこで新しい牧場を作るらしい。
どこへ向かっているのだ、あのフリーダムな父親は。
肝心要の家畜や従業員を引き連れて行きながら、顧客の信頼も厚い牧場を愛息子とは言え、高校を卒業したばかりの拓己にまるっと任せていいのだろうか。父親曰く、「お前は私より才能があるから問題ない」との事だが、どう考えても18歳の身では問題だらけとしか当時は思えなかった。
だがこれも男が父親を乗り越える為の試練なのかも知れぬ。
拓己は密かに決意した。
踏んで……じゃない、越えてやろう、父親の背中を。
腹を括った拓己が牧場を引き継いで三年ほど、かつての従業員や家畜が拓己に仕事を仕上げとばかりに教えてくれたのは幸いだったと言える。
新たな顧客や家畜ブローカーを紹介してくれ、懸命に育てた家畜を出荷すれば顧客も大満足だった。
拓己の努力と研鑽の賜物か、遮二無二に頑張った現在は、どうにか牧場は軌道に乗ることができたのだ。
拓己自身の頑張りはもちろん、子供の頃から牧場や家畜に慣れ親しんでいたのが功を奏したのかも知れない。
補足として一人前になるまでの三年間というもの、父親は拓己に一切関知しなかった。
父の背中を乗り越えていけとか格好いいことをほざいていたが、新しい島に牧場を映して軌道に乗せることが楽しかったのだと、父親が連れて行った古株の従業員から言質は取れている。
いつか吊す。あの馬鹿親父。
拓己は夕日に向かってそう誓った。
若き日の誓いを胸に、無軌道な父親から牧場を引き継いで七年。がむしゃらに働き、見事に牧場を軌道に乗せた拓己は、もういっぱしの牧場主と言えるだろう。
誰もがさすがは二代目と褒めそやす声を聞きながら、拓己は父親がいる島の方角に中指を立てつつ、今日も元気に家畜やペットの世話に勤しむのだった。
「あー、いい天気……」
拓己は晴れ渡った青い空を見上げ、ゆっくりと進む馬車に揺られながら天を仰ぐ。
少々寝不足気味の細い瞳に、爽やかな青空が目に沁みる。
今朝も洗いざらしの青いツナギを着た拓己は、牧場で飼育している家畜の世話に向かう途中だった。
年齢の割には少々童顔であること以外、取り立てて特徴のない平凡な容姿の拓己は朴訥としたツナギ姿がよく似合う。
ここに麦わら帽子や農作業用ピッチフォークがあれば、その古式ゆかしい牧童スタイルは完璧だっただろう。
朝のせいか取り分け空気がうまかった。もっとも牧場は山間部にある風光明媚で自然豊かなのだから、空気が綺麗なのは当たり前だ。
温厚で暢気な牧場主に見える拓己が持つ牧場は、猪狩家が所有する山の中腹を開墾した場所にあった。
曲がりくねった細い市道と一カ所だけ繋がった猪狩家の私道は、車一台がやっと通るだけの幅しか無い狭さだ。二車線どころか幅を路肩に寄せても車二台は通れないだろう。
もっとも私道は猪狩牧場の関係者か客しか通れないため、山から降りる車は猪狩家所有の車のみ。事前に連絡さえしてあれば、車同士が行き交うこともない。
猪狩牧場に行くには、この私道を使う以外に道はなく、私道の途中には高くそびえ立つ鉄製の柵が道幅いっぱいに備え付けられて関係者以外を遮断していた。
その鉄柵からさらにつづら折りを登ったところに猪狩牧場はあった。
木製の柵で囲まれた200坪に満たない牧草地と畜舎。拓己が住む家と来客用のロッジが幾つか並ぶ。裏手には規模は小さいが天然の露天温泉まであった。
ちょっとした敷地ならそこそこ広いが、牧場と呼べる広さではない。そもそも200坪に満たない牧草地で家畜を賄えるわけがないのだ。
せいぜい広場がある山のキャンプ地と言った方が正しいだろう。
だが確かのここは牧場だった。
馬が居る。牛が居る。豚が居る。羊や牧羊犬、時に猫や鼠まで。
入り込んだ鼠を豚に飼育し、出荷できたときは拓己にも感慨深いものがあった。
家から数十メートル離れた畜舎に向かう道すがら、拓己は動きが襲い馬の尻に鞭を入れることにした。
「遅いぞ、駄馬め」
手にしたのは絹で編まれた一条鞭。それをぷりぷりと揺れる筋肉質の尻に当てれば、馬の轡から涎と呻きが漏れた。
「……ふ、ぐぅ……っ……!」
「……ん、ぐぅぅぅ……ッ!」
馬は20代半ばの青年たちだった。
双子なのか口に轡を嵌められた苦悶の表情は見分けが付かないほどそっくりだ。
拓己が乗ってる馬車とは世間的には人力車に当たるだろう。車夫が持つ持ち手部分がなく、車体は腰にハーネスを付けた青年二人が膝を着かない高足の四つん這いで曳いている。
彼らがこの牧場で馬車を曳く“馬”だった。
引き締まった尻から揺れるのはふさふさとした馬の尻尾。
この牧場で尻尾をつけたものは“家畜”か“ペット”だ。
アナルバイブ付きの尻尾を揺らし、双子の馬は必至で馬車を曳く。
いやらしいことに家畜たちのサイズと前立腺の位置に合わせたアナルバイブが、動くたびに開発されたそれを抉るのだ。
双子の股間からはだらだらと先走りが溢れて、転々と地面に染みを作っていた。
「駄馬ども、腰の振りが甘いぞ! もっと尻を振ってお客様を満足させて運べるようにしろ」
アスリートのように引き締まった二つの尻に、容赦なく交互に絹の鞭を当てながら拓己は手綱を操る。
この双子の二頭は来月には出荷が決まっている商品だ。買い主は中南米の大金持ちで、馬車としてはもちろん、牝馬として種馬に交尾もして貰えるらしい。家畜としての栄えある姿、是非ともその晴れ舞台は生かネットで見守りたい。
四つん這いで馬車を曳いていた二頭は、力尽きたのか畜舎に辿り着くとそのまま崩れ折れてしまった。それでも尻尾の付いた尻だけは高く上げようとする健気な姿はいじらしい。
家畜やペットは厳しくも愛情を持って育てろとは父の教え。
彼らが倒れ込んだのはクッション性のあるパットを藁で敷き詰めた場所だ。
四つん這いで馬車を曳く時も掌や膝を怪我しないように、彼らを含め家畜の放牧には二の腕までの手袋とニーハイのブーツを着用させている。
もちろん放牧地はふかふかな芝生を敷き詰めてあった。打擲や拘束以外で家畜に怪我をさせるなどオーナー失格なのだから。
ジェルパットに敷いた藁の上で、轡を嵌めた双子は切なそうに拓己を見上げている。
尻の振りはイマイチだったが、種馬との交尾を見据えて新調した拡張アナルバイブで頑張った方だろう。二頭の頭を撫でて互いの轡を外してやる。
だらだらと涎と舌が唇からこぼれ落ちた。
「遊んでいいぞ? 仲良くな?」
畜舎に入る拓己の背後で、鏡合わせのようにそっくりな双子がお互いの唇を貪り、胸や股間に手を這わせて遊び始めていた。兄弟仲が麗しい。
兄が弟の股間に顔を埋めれば、弟は兄に陰茎を含ませたまま体を起こす。藁の上に仰向けになった兄の顔に跨がるようにして自分も兄の股間に顔を埋めた。
じゅぷじゅぷと卑猥な音を鳴らして69に勤しむ双子の馬たち。
拓己が許可し尻尾さえ取らなければ、このように遊んでも構わないのだ。
愛のある畜産、それが猪狩牧場のモットーである。
慣れ親しんだ朝の畜舎は今日も熱気に包まれていた。
のんびりとした足取りで畜舎を歩けば、ぞれぞれの家畜スペースから元気な挨拶が降りかかってくる。
「おはようございます、オーナー」
「おはようございます、オーナー。今日はよく搾れてますよ」
最初に足を向けた家畜スペースは雌牛が飼われているスペースだった。最近、原産が同じ若い雌牛と少し年齢が上の雌牛を買い入れたのだ。
家畜の牛を担当している若者が手慣れた仕草で搾精しながらにこやかに声をかけてきた。
「すっごく大量に絞れてますよ!」
「ああ、雌牛16号は一週間搾らなかったからね。濃厚なミルクがよくでるだろう?」
他の家畜とは板で仕切られた牛の飼育スペースで筋骨逞しい雌牛が、小柄で痩せぎすな青年の手で溜まりに溜まっていた精子ミルクを搾り取られている。
首のカウベルをかろんかろんと鳴らし、仕切り板に手をついてしなやかな尻尾を左右に振りまくる姿は、小バエを追い払う牛の動きそのものだ。
牛の股間辺りにしゃがみ込んだ痩せぎすの青年は、掌にイソギンチャクのようなシリコン製の繊毛がびっしりとついた手袋で雌牛の股間から深皿にミルクを搾っていた。
「ほら、びゅーびゅー出るんですよ! 乳量が多い牛ですね。……ほら雌牛、ミルク搾りキモチイイの?」
「い゛……ッ、イイ゛ッッ……ちんっ……ぽッッミルグ、ぎもぢ、い゛い゛っっ」
逞しい腰を揺すり、繊毛付き手袋に巨根を擦りつけながら、雌牛は自分で搾乳を強請ってへこへこと腰を振っている。
皿には既に濃い精液ミルクが溜まっていた。
その様子を涙目で見ているのは、壁に溶接された鎖と首輪で繋がれた搾乳未経験の若い雌牛。その股間は色が綺麗な陰茎が原を叩くように勃起し、ミルク混じりの我慢汁が溢れ落ちている。
「うんうん、さすが可愛がっている後輩雌牛の代わりになると豪語しただけあるね。いい雌牛に育ってくれて嬉しいなぁ。――そうだ、搾ったミルクは自分で舐めさせてやって。皿がぴかぴかになるまで自分のミルクを舐めながら、空っぽのミルク袋を後輩の雌牛にしゃぶって貰いなよ」
「後輩雌牛もそろそろ搾乳を覚えていい頃ですし、先輩が後輩に物事を教えるのは当然ですもんね!」
痩せぎすの青年が、繊毛の隙間に精液が染み込んだ手袋のまま、ぐっと親指を立てて朗らかに了承した。
牛の様子を確認した拓己は、今度は羊のスペースへと歩く。
従順になった雌馬や雌牛には優しい気持ちでいたが、雌羊はそうも行かない。なにしろ反抗的なのだ。
そのため昨夜から少々厳しめの調教を行っている最中だった。
口元を曳き結んで拓己は羊の飼育スペースを覗く。
プラチナブロンドの巻き毛に巻角を着け、首や手足首にふわふわとした羊毛を巻いた雌羊が、大の字に拘束された状態で腰を上げ下げしながらすすり泣いていた。
「どう? このバカ羊は少しは反省している?」
「……だいぶ反省してはいますが、今までが今まででしたからねえ」
朴訥そうな年嵩の男が短く整えた頭を掻く。
視線の先にはカクカクと腰を揺らし、先走りか尿が分からないものを噴き零しながら、目隠しとボールギャグを嵌められたまだ10代半ばの雌羊がいた。
雌羊は拓己の声を聞いて泣きじゃくりながら、拓己が居るであろう方向に顔を向ける。だがボールギャグのせいで言葉は何一つ話せなかった。
「……お、ごぉ……っ……お、おぉ……っ……んんっ……」
ボールギャグが邪魔をして、なにを言いたいのかサッパリ分からない。
このバカな雌羊は仕入れてから日が浅く、態度も言葉も反抗的だった。それゆえに尻の穴に羊の毛玉を押し込んで一晩放置してやったのだ。
いま、尻の中は猛烈なむず痒さで掻き毟りたいくらいになっているだろう。男娼を育てる手管として羊毛は使い勝手がいい。
この爛れるような痒さの中、いきり立った陰茎を押し込んでやれば、爛れた肉を割る衝撃に痒みを上書きされて快楽の虜となるに違いない。
尻への快楽とナカイキで頭がおかしくなるほど交尾に嵌まるはずだ。
「確か若い個体が好きなお客様が午後に来る手筈だから、お客様自身でこのバカ羊をチンポ堕ちさせようかな。ご自分でチンポ堕ちさせたチンポ狂いの雌羊を買い取ってくれるかもしれないしね」
冷ややかに拓己が立ち去る気配を感じたのか、大の字に拘束された雌羊はヒクつく尻の穴を曝して哀願する様子を見せる。けれど基本理念は愛情を持って家畜に接する拓己だが、こればかりは簡単に甘やかささなかった。
誰が飼い主で立場が上なのか、きちんと躾けなければならないのだ。
それが理解できないと客や譲渡先の新しい飼い主はおろか、雌羊自身も不幸になるのだ。
愛。
これも、愛。
「反抗的と言えば、鼠5号はそろそろ家畜に進化させようと思うんだけど、やっぱり人気は雌豚かな?」
軽やかな足取りでひょいと豚のスペースを覗きながら、声をかけたのは黒髪と小麦色の肌を持つスパニッシュ系の美丈夫と、けぶる金髪と碧眼が貴公子を思わせる端整な顔立ちのアングロサクソン系の若者だった。
彼らは意外にも流暢な日本語で拓己へ言葉を返す。
「雌豚は人気ですからね。もう少し増やしてもいいと思いますよ」
「馬や牛に比べて使い勝手がいいからな」
「そうだねぇ。でもちゃんとマゾ豚になろうと頑張った個体と、逆らった個体を同じにしちゃダメだよなぁ。うん、鼠5号は豚の精液貯金箱じゃなくて、豚の便器にしちゃおうか」
鼠。それは私有地になんらかの悪意や目的を持って入ってきた者だ。牧場にとって鼠は害獣に他ならない。
「分かりました。鼠5号は近いうちに豚舎に移しておきますね」
貴公子然とした若者と逞しい美丈夫と言葉を続けながら、拓己は先ほど馬にも使っていた絹を編んだ鞭をゆっくりと扱き、床に敷かれていた藁が巻きあげて床を打擲した。
鼠は話はそこまでとして、今度は豚の世話だ。
宙に浮いた藁の何本かがパラパラと飼われている豚たちの背中や尻の上に落ちる。
打擲の音と皮膚に触れる藁の感触、それらに反応した豚たちが悩ましく螺旋の尻尾を振って腰をうねらせた。
一番広く取られた豚の飼育スペースは、スペースと言うよりも豚舎と言える広さだった。
そこには豚の尻尾付きアナルバイブを嵌められた人種も体格も違う若者たちが、拓己に尻を向けた四つん這いの格好で並んでいた。
猪狩牧場の主力品種は、剥き出しの尻にマジックで番号を書かれた姿で牧場主と家畜の立場を自ら伝えている。
「……ひぃっ……ィィィッッ」
手前の一頭の尻に生えた尻尾を摑んで揺すってやれば、舌を出して嬌声を迸らせる。じゅぽじゅぽと抜き差しすれば、連なった玉型のバイブが産卵したみたいに現れて愉快だった。
「くぅ、……う……うぁ、あ、あぁぁ……ッ」
次の尻尾は繊毛がアナルの表面を擽るタイプで、この個体は深く突かれるよりも浅い場所を責められると喜ぶ。
「……あぁ、あん……っ……アァッ、あ、ああアァッ」
前立腺と会陰の同時責めが好きな個体には、尻尾の下側から会陰を押す突起が生えていた。
「あひぃっ……ひぃんっ……ひぃいぃぃぃんっっ」
二本挿しにも耐えうるよう拡張された個体には、一回り以上大きなバイブが突いた尻尾。
こうやって拓己はずらりと並んだ尻から揺れる螺旋の尻尾をつかみ、一匹一匹形状が違うアナルバイブを揺すったり抜き差ししたりを一匹一匹確かめてやった。
主力品種だけに扱いには気を遣っているのだ。
尻尾の形は同じだが、アナルバイブの方は個性を考慮して形は一匹一匹違う気の遣いよう。
ちなみにこれはオーダーメイドでアダルトグッズを作る職人の手による物。使用感のレポートを送ることが契約の一つで、若干狂気を感じないわけでもないが業務提携という奴だ。
「うん、どれもいい具合に蕩けて、いい感じに物欲しげだけど、特に54番と49番の仕上がりがいいね。チンポ欲しさになんでもしそうだ」
呼ばれた54番と49番は拓己が発した“チンポ”という直接的な言葉に、まるで小便を漏らしたかのようにダラダラと先走りを滴りこぼす。
「お客さまの要望で異種姦を見たいそうだけど……54番か49番を牧場の柵に飾って置いて、お客さま好みの犬を選んで貰って交尾させようか」
拓己の気負いのない言葉に金髪の美青年と黒髪の美丈夫が、それぞれ尻に“54“”49”と書かれた少年と青年の首輪にリードを繋ぐ。
掌と膝を守るパット入りのサポーターを着けさせて、どうやらこのまま牧場に連れ出すようだ。
上気した顔で豚舎を出る二匹に嫉妬と羨望の視線を送るほどこの雌豚たちは調教が進んでいた。
牧場で人間としての矜恃を折られ、人権を否定され、肉の快楽と被虐を餌に飼育された彼らは、家畜やペットとして肉欲の虜となり、その立場に幸福さえ感じているのだ。
猪狩牧場。
それは政界や財界に太いパイプを持つ牧場。
顧客の好みや贈答用に合わせ、オスの人間をメスの家畜へと飼育する牧場だ。
顧客から飼育を依頼されることもあれば、元々素質が有り、自分を売り込む為に自ら飼育されに来る者、あるいは厄介払いの受け入れ先として密かに知られる場所だった。
そこに客として訪れる事が可能なのは、会員か会員の推薦がある人間のみ。
個人情報は徹底的に保護され、猪狩牧場に来るには猪狩家が所有している山間の一本道を通るしかない。
その一本道はもちろん猪狩家の私道で、途中には監視カメラ付きの鉄製の大きな柵が有り、鍵を使わなければ通ることは出来ないのだ。
稀に猪狩家や猪狩牧場の顧客の背後を探る鼠が居るが、そこそこ背後が厚い鼠なら顧客の権力を使って“大人の話し合い”をし、背後が薄い鼠なら害獣の鼠から家畜にジョブチェンジして貰うだけ。
猪狩牧場二代目の牧場主は、こうやって青いツナギ姿で日々家畜の世話に終われる毎日毎日だ。
充実していると言えば充実しているが、たまに父親を思い出しては亀甲縛りで吊すか駿河問いで吊すかと中指を立てても致し方ない。
経営が順調と言うことは、それだけ忙しいと言うわけだ。
忙殺される拓己にストレスは溜ま――らない。
なぜなら。
「白豚、黒豚。今夜はお客様の前でいっぱい遊ぼうか?」
拓己の言葉に金髪青年の貴公子然とした顔は蕩け、黒髪の青年美丈夫は目を潤ませた。
彼らは拓己の側近であり、同時に愛人であり、ペットであり、専用の家畜。
かつては雌豚1号、2号と呼ばれていたが、拓己に気に入られ拓己の物となったのだ。
仕事も遊びも拓己には同じなので、当然ストレスが溜まりようもない。
父親の言葉は嘘ではなかった。
生まれながらの調教師。
それが猪狩拓己という人間だった。
趣味と実益を兼ねた拓己の牧場ライフはまだまだ続くのだった。
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