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【3】-5
堂上を残して先に村山の工房を後にし、一日ぶりに自宅マンションに帰った。
壁のスイッチを押してしばらく待ったが、なぜか電気が点かなかった。
「なんで……?」
すぐに思い当たるのは、料金だ。
また引き落としがされなかったのか。
通知が来ていたはずだが、よく見ないでDMと一緒に処分したのだろうと察しをつけた。
片付けだけはできると思われている光だが、実際にはなんでもさっさと処分する一方で、必要なものまで一緒に捨ててしまうことがざらだった。
郵便物の仕分けや預貯金の管理、冷蔵庫内の食品の賞味期限のチェックなどは、ほとんどできていない。
何かを作っていると、ほかのことがどうでもよくなるからだ。
仕方なく、スマホの明かりを頼りに当面の着替えと仕事に必要な最小限の画材とパソコンをかき集め、クルマに積み込んで清正のマンションに向かった。
「ひかゆちゃん!」
満面の笑みで汀に出迎えられて、心の底から癒される。
「どうしたんだよ、おまえ」
「電気が……」
「またか」
清正はガックリと肩を落とした。
「二、三日置いてください」
「もう、この際、二、三日と言わず、ずっとここにいろよ」
「え……?」
「なんか、俺、おまえを一人にさせとくのが嫌になった」
汀を抱き上げた光を見下ろし、少し困った顔を見せた。
「い、嫌になったって……。何だよ、それ」
「嫌になったんだよ。おまえ、飯とかちゃんと食わねえし、孤独死とかしてても気付かれなさそうだし。それに……」
「孤独死……」
「こよくち?」
さすがにそれはないと思う……。
「とにかく、一人暮らしはやめよう。このまま、しばらくうちで一緒に暮らそう」
「パパ、ひかゆちゃん、じゅっとおうちいゆの?」
そう、と勝手に清正が答える。きゃあと歓声をあげて汀が嬉しそうにはしゃいだ。
どうせ二、三日いるのだから、その間に考えておけと言われた。
くしゃりと髪をかき混ぜられて、うんと頷いたものの、それを受け入れるかどうかはビミョーな選択だと思った。
清正のそばにいられるのは嬉しい。けれど、理由もなく、期限もないというのは不安だった。
理由や期限がなかったら、と光は考える。
いつか出てゆく時には、どんな理由ができるのだろうかと……。
(ひどい喧嘩をするとかか? それとも……)
清正の再婚。
考えると胸がチクリと痛んだ。
一度距離が近付くと、元に戻った時には以前より遠い存在になる気がする。清正の「彼女」になり、その後別れた女性たちを見ていて、いつもそう思っていた。
だから……。
停まった電気やガスが、普通に使えるようになるまで、あるいは、ほかのどんなことでもいいから、理由とか期限があったほうがいいのだ。
黙り込んでいると、清正が言った。
「うちにいてくれるなら、その間、汀の迎えを頼みたいんだよな」
しばらく帰りが遅くなりそうなのだと続ける。
「うん。わかった」
そういうことなら、光も世話になりやすい。
「光……」
もう一度光の髪を梳いて何か言いかけたが、清正はなかなか続きを言わなかった。
「何だよ?」
「いや、いい。とりあえず入れよ」
「ひかゆちゃん、どうじょ」
嬉しそうな汀に手を引かれ、昨日に続いて清正のマンションに上がり込んだ。
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