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第55話
気になる話 7
『僕もね、弘樹くんがバカだってことは分かってる。でも、やっぱり男の僕より女がいいのかなとか考えちゃうとさ……ほら、弘樹くんって女との経験なかったから』
興味本位、出来心。
西野君がそんな理由を思い浮かべてしまうのは、弘樹のことをよく理解しているからこそで。
もしかしたら、男女の違いを知らない弘樹はお酒の力でとんでもないことをしでかしてしまったのかもしれないと……西野君の気持ちも分かりかけてきたオレは、何も言えなくなってしまうけれど。
「西野君は、ケンカしてから弘樹と連絡取ってない感じ?」
とりあえず、西野君と弘樹の現状を確認しようと思ったオレは、西野君にそう問い掛けた。
『取ってない……というか、取れない。浮気が発覚したのは、僕が弘樹くんのスマホを勝手に見ちゃったからなんだよね。だから余計に揉めちゃって、信じられないならもういいって弘樹くん、が……っ』
ぐすんって、小さく聴こえた鼻をすする音。
信じたくても信じられなくて、信頼したいのに信用できない相手。大好きな恋人がそんな相手に変わってしまった時、どうしたらいいのか分からなくなる。
……そんな時、オレも大泣きしたんだ。
言いたいことが言えなくて、疑問と不安と寂しさが心の中で入り混じる感覚。独りで悪い憶測を立てることしかできなくて、しなくてもいい後悔をして。
泣きたくないのに勝手に流れてくる涙を止めることもできずに、あの時のオレは兄ちゃんに支えてもらったんだ。
傷つけることを、恐れちゃダメだよって。
伝えたいことは言葉にしなきゃ、伝わらないこともあるんだよって。
そんな兄ちゃんの言葉が、オレに勇気をくれた。
オレと雪夜さんの時は、西野君がオレたちの仲を壊しかけた人だったけれど。あの時の感情を乗り越えた今のオレは、西野君の友達だから。
どうしたら、弘樹と西野君の仲を戻すことができるんだろうって。今度はオレが兄ちゃんみたいに、支えることのできる人になりたいって。
オレの脳内は一生懸命働き、そしてやっぱり弘樹に直接話を聞こうと決意した。
「西野君、辛いとは思うけど証拠写真をLINEで送って。あと、電話で話すよりも会って話した方が早いと思うから、西野君が時間取れそうな日を教えてくれる?」
『……うん、分かった。バイトのシフト確認してから、日程はLINEで写真と一緒に送るよ』
「ありがと。今はまだ色々混乱してると思うし、弘樹のことは信じられないと思う。だから西野君は、弘樹に言いたいことをオレに言っていいよ。今抱えてること全部、声に出すだけでも気持ちは楽になるはずだから」
オレは持てるだけの情報を持ち、弘樹に直接会って話をしよう。弘樹がどれだけ忙しくても、きっと弘樹はオレからの誘いを拒まないだろうから。
それから、西野君とも個別で直接会って話を聞いてあげよう。西野君と会ったところで、オレが役に立てるかは分からないけれど……でも、そうした方がいい気がするんだ。
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