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第68話

気になる話 8 「弘樹のバカが、そのクソアマのロデオ役に抜擢された。んで、そのことが彼女にバレて、弘樹が俺んとこに助けを求めてきたのが最近の話」 ……だから、お前がその女と会って真相を確かめてこい。 と、俺が言う前に。 「えー、アイツ俺にはなんにも言ってくんなかったのにッ!!バイトで毎回顔合わせてんだぜ……俺を頼れよ、この浅井康介様をよッ!!」 康介の職場のショップでバイトしている弘樹は、バカで頼りない先輩を頼ることはしなかったらしい。 けれど、弘樹にしては賢い選択をしたのではないかと思い、俺は笑いながら康介に話し掛けて。 「だから、弘樹の代わりに俺がお前を頼ってやってんだろ。ありがたく思えよ、康介クン?」 バカは調子に乗るとうるさいが、そんなバカでもクソアマよりかは先輩だ。 歳上の扱いが苦手らしい女に、やたらと先輩風を吹かしたがる康介を召喚させてやろうと……俺は、久々の営業スマイルで康介に微笑んでやった。 「白石、俺お前のその顔見るの久しぶり過ぎて胸がドキドキしちゃう……相変わらずイケメンだな、イケメンにスーツは卑怯だッ!!」 「……お前さ、人の話を聞いてたか?」 正直、他人事の浮気騒動の真実をこのバカに托すのは気が引けるが。話がどう転んでも、俺がここまで手を貸してやったからには上手い解決策を弘樹自らで見つけ出すしかないから。 イケメンがどうのこうのって、キャンキャン騒ぐ康介の姿に懐かしさを感じて。学生時代に、酷く面倒だと感じる経験をしていたとしても、それがこんな形で役に立つ日がくるのかと。 このバカと過ごした無駄な時間は、案外俺に沢山のことを教えてくれた気がした。 くだらなくて、取り留めもない会話。 それでも、無駄話から蘇る記憶は悪いものではないけれど。 「俺が愛ちんを脅して、そんで真実を聞き出して、それから弘樹と彼女が仲直りして、最後に愛ちんと俺が付き合ってハッピーエンドでいいんだろ?」 俺の話を聞いて、どうしたらこんな楽観的な解釈ができるのだろう。そう思ってしまうくらいに、康介からの返事は理解に苦しむものだった。 「まぁ、そこまで先が見えてんなら俺は口出ししねぇーけど。サークルのOBって立場を最大限利用しろ、お前の役目はどうやってロデオを製造してんのか、女から聞き出してくることだから」 「こうなったら、どんな女でも関係ねぇ……俺が絶対、愛ちんのロデオマーシンになってやるッ!!」 「ただのセフレになってどうすんだよ、男なら喰われるより喰ってこい。いろんな意味で、お前からの報告を楽しみにしとくわ」 今の康介に、何を言っても無駄だろう。 時間的にもそろそろ頃合になってきたことだし、今日はこのくらいで充分だろうと俺は判断して。 寝起き姿で独り張り切るバカな男を店に残し、俺はさっさと仕事先へ向かった。

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