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第83話

倦怠期って 3 「白石さん、俺……やっぱりバカですね。セイと喧嘩するためにここに来たわけじゃねぇのに、悠希だけじゃなくて俺はセイまで傷つけちまった」 ボードの側からラグの上へと戻ってきた弘樹は、そう洩らし座り込む。そんな弘樹に煙草の煙りが極力かからぬよう、俺は弘樹と逆の空間に向かって紫煙を吐き出した。 「……でも、俺にもひとつだけ分かったことがあります。セイが選んだ相手が、俺じゃなくて良かった……白石さんで、ホント良かった」 少しの沈黙の後、口を開いた弘樹は俺に向かいヘラっと笑うけれど。 コイツの中では未だに星が1番で、幸せになって欲しいと願う相手は恋人よりも親友の方が勝っているのではないかと思った俺は、弘樹に返す言葉を探してみるが。 「俺は、悠希に甘えてたんですね……こんな俺でも、悠希は受け入れてくれるから。それが単純に嬉しくて、俺は悠希の気持ちを考えずに突っ走れるだけ走っていただけなのかもしれません」 思いの外、好きな気持ちをしっかりと整理出来ているらしいバカ犬は、氷が溶けてすっかり薄まってしまったカフェオレを飲み干していく。 幸せになって欲しい相手と、自らの手で幸せにしたいと思える相手は必ずしも一致するわけではない。弘樹はそのことを理解しているのにも関わらず、自分の気持ちを上手く西野に伝える術を知らないんだろうから。 「流れに身を任せてるだけじゃ、掴めるもんも掴めなくなんぞ。考え過ぎもお前らしくねぇーとは思うけど、ない頭使ってもう少し西野のこと考えてやってもいいんじゃねぇーの」 大切なものを失って初めてそれが大切だったんだと気づくこともあるのだろうが、失ってからは遅いことだってある。 弘樹と西野が今後どうなっても、正直俺にはどうでもいい。しかし、俺が愛する星くんのことを思うと、2人の別れはアイツにとって辛いものになるだろう。 そうなる前に、弘樹と西野に関係の修復をしてほしいところではあるけれど。 「悠希の気持ちを確かめる前に、俺が浮気をしてないって証明しなきゃならないんです。それからじゃねぇと、たぶん悠希は俺と口聞いてくんねぇから」 「まぁ、だろうな。康介のバカがいつ動くか分かんねぇーけど、やれるだけのことはやってやったつもりだ」 浮気の真相を知る相手とコンタクトを取ろうとしている、肝心なヤツからの連絡はまだないままで。 「今日はもう遅ぇーから、俺はそろそろ寝る。ソファーとブランケット使っていいから、お前も休め」 これ以上弘樹と話し続けていたら、そのうち夜が明けてしまう。そう思った俺は、煙草の火を消しソファーから立ち上がった。 「白石さん、ありがとうございます」 ラグの上で丁寧に頭を下げた弘樹だが、本当に感謝を伝えるべき相手は俺じゃない。 「その言葉は明日の朝、星に言ってやって。お節介かもしれねぇーけど、アイツの思いだけは無駄にしてほしくねぇーから」 2人の関係に首を突っ込み過ぎて、今頃ベッドの中で後悔タイムに突入しているであろう星のことを思い、俺は弘樹に微笑むと寝室へと向かった。

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