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第20話頼もしき王

 体を許す行為をなんとも思っていないのか、むしろ好んでいるのか、クウェルク様が苦しんでいる気配は一切ない。  どうしても抵抗感を持ってしまう俺自身との感覚のズレを意識しながら、俺はクウェルク様に尋ねる。 『ビクトルは使い物になりそうですか?』 『ある程度はな。だが立場はミカルよりも下……できれば協会の中枢を知るミカルから、色々と情報を聞き出したいものだ』  協会で最も実力のある男がミカルだ。今まで戦ってきたことを思い返せば、上層部だけでなく末端のことまで把握し、上手く指示を出して動かしている。  適材適所が上手い男だ。状況を掴み、それぞれの事情を知った上でなければ手配は難しい。つまりそれだけミカルは情報を持っている、ということだ。  俺は己が取るべき行動を一考する。  あざとい誘惑が逆効果になるならば、向き合っての交渉を考えるべきか?  奴の知りたいことを、俺の知りたいことと引き換えに聞き出す。  ミカルは俺と話したがっている。こちらから話をしたいと切り出せば、きっと応えてくれるだろう。 『クウェルク様、私がミカルから情報を聞き出します。そのために、こちらの手の内をある程度見せることを許して頂けますか?』  俺の提案にクウェルク様は『うむ、許可しよう』と即座に答えてくれた。そして、 『我らの隠れ場所以外は何を伝えても構わぬ──ああ、あとククの正体も教えてはならぬぞ? それは私が直々に教えてやりたいからな』  どこか楽しげに話を続ける。明らかにビクトルを我ら側に堕とすことを面白がっているのが伝わってくる。  この状況に楽しみを見出せるクウェルク様の感覚が俺には理解できない。  ただ、それだけ心に余裕を持たれているということでもある。俺よりも長く生き、魔の者の王として生き続けてきた経験のなせる業だろう。  俺のために敵の中へと飛び込ませてしまったことを不甲斐なく思うが、来てくれてありがたいと心から感謝するばかりだ。  きっと俺だけでは捕らわれの日々に心を憔悴させ、嘆くばかりだっただろう。  心を強く持って前へ向き続けることができるのはクウェルク様のおかげだ。  王の頼もしさを噛み締めている中、クウェルク様の思念が小さく唸る。 『ん? 誰か来たな……カナイよ、これからは三日に一度ほどの頻度で、互いの状況を報告しよう。くれぐれも焦って行動するな。たとえ私の身に危険が及んでいると分かっても、知らぬ振りを通し、従順な態度を貫け』 『心得ました、クウェルク様』 『必ず我が同胞たちの元へ戻る。今の内にしっかりと手土産を集めておけ──』  そう思念の残し、トカゲからクウェルク様の気配が消える。  ただのトカゲとなったそれは、辺りを見渡し、隣に小鳥がいると気づいて草むらへと消えていった。

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