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第22-1話ミカルの過去

 俺をソファへ座らせてから、ミカルは一旦部屋を出ていく。紅茶の湯を沸かしに行ったのだろう。その間、俺は何を聞いてやろうかと考え込む。  いきなり協会の情報を聞き出そうとしても、話をはぐらかされるだけだろう。  なるべく情報になり得そうな内容で、尋ねても不自然ではないもの──。 「お待たせしました。せっかくなので紅茶に合う菓子も持ってきました。ココ、という焼き菓子です。カナイの口に合えば良いのですが」  いつの間にか部屋に戻っていたミカルに声をかけられ、俺は我に返る。  テーブルの上には紅茶の湯気が立ち昇るカップに、丸い小石のような薄茶色の焼き菓子が置かれていた。  まったく気配がなかったミカルを、思わず俺は訝しむ。 「ミカル……お前、わざと気配を消したな? 寝顔を見ていた時もそうしていたのだろ?」 「すみません。外で戦わない分、戦いの勘が鈍らないようにしているんです。決してカナイの寝首を掻こうとしている訳ではありませんから。あ、でも枕元では起こさないよう、全神経を集中させて気配を殺していました」  そこまでして人の寝顔を見たかったのか? やめてくれ。明日からは布でも巻いて寝てやる。  言わなくてもいいことを言われて、俺は不快さに目を据わらせる。  しかし言うだけ苛立ちが募るだけ。時間の無駄だと割り切り、俺はさっさと本題へ入ることにした。 「人の身で、野山の獣がごとく気配を消せるなど、生半可な努力では身に着かない。ミカルよ、お前は協会でどれだけの修練を積んできた? 元は何者だ? 前に俺の過去を話したのだから、今度はお前が語るべきではないか?」  一番怪しまれず、あわよくば協会の情報も掴める提案。  ミカルは訝しがる様子を一切見せず、快く頷いた。 「私のことでしたらいくらでも教えましょう! むしろカナイに知ってもらいたいほどですよ」 「なぜだ?」 「人にわだかまりを覚えるのは、魔の者だけではない、という一例をお伝えできますから」  俺の前に紅茶を差し出した後、ミカルは自分の物も淹れて隣へ座る。  人間ならば誰もが安堵を覚えるような穏やかな微笑を浮かべてひと口紅茶を飲むと、雑談を交わすように軽げな口調で話を始めた。 「私は元々、山に囲まれた名もなき村の農夫の息子でした。  退魔師という人がいる、ということしか知らない田舎の子。  何もなければ大きくなった後は父の土地を継ぎ、農夫をしていたことでしょう。  でもそれは叶いませんでした──村に魔の者が逃げ込んだあの日、私の人生は大きく変わってしまいました」

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