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第62話隠れ家
ミカルは街道が伸びるままに町の中へは入らず、迂回して裏側の寂れた所から足を踏み入れた。
そうして密集して集まった家々の中から、人気のない古びた家へ私を案内する。
中は完全に明かりが入らぬよう窓に板が張られ、完全な闇の中、埃っぽいにおいに出迎えられる。魔の者である俺の目は、暗くても中の様子は把握できる。
人の目では何も分からないはずだが、ミカルはまるで見えているかのように部屋の中へと入っていき、奥にある暖炉へと向かっていく。
しゃがみ込んで何か手を動かしているミカルに首を傾げていると、しばらくしてほのかに青白い光が暖炉から生まれ、近くをささやかに照らした。
「どうぞこちらへ。体が冷えているでしょう……こう見えて温もりもありますから」
「いったい何をした? 火とは違うものらしいが……」
「結界石を独自に調合して作ったものです。魔の者を封じる以外の使い道はないかと、一時期研究していたのですよ。色々と使えて便利ですよ」
手招きされるままに俺も近づいてみれば、確かに温もりが伝わってくる。
不思議なものだと思いながら、俺はミカルの隣へ立つ。
「結界石が材料ならば、俺がこれを浴び続ける内は弱ってしまうんじゃないのか?」
「大丈夫ですよ。魔の者を封じるためには、結界石に術をかける必要がありますから。それをしなければ、カナイを害するものにはなりません」
薄く微笑みながら答えると、カナイはそっと俺の濡れぼそった前髪に触れてくる。
「今すぐ拭く物を用意しますから、濡れたものをすべて脱いで下さい。これぐらいで死ぬことはないでしょうが、気持ちのいいものではないと思いますし」
一瞬、どきりと胸が跳ねる。
こんなずぶ濡れの状態だ。そう判断して脱ぐように言っているのは、別におかしなことではない。
しかし肌をさらせばどんな目で見られるかを知っている体が、カッと熱くなって簡単に疼きを覚える。
こんな時に体がミカルを欲しがってしまうなんて……どう考えても飲まされた薬のせいだ。
羞恥を覚えながら俺は「分かった」と返事をし、濡れて肌に貼りつく服を脱いでいく。
なかなかに俺を離してくれなくて、袖から腕を引き抜くだけでも一苦労だ。
どうにか俺を重くしていたものをすべて脱ぎ外した時。
「……カナイ……」
背後からミカルの手が回され、俺は深く抱き込まれていた。
ぴたりと密着した背中から、ミカルの温もりと鼓動が心地よく伝わってきた。
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