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第77話俺だけが知らなかったこと
協会が一枚岩ではないことは知っていたが、今回の件で少数派だった魔の者との共存と和解を望む退魔師たちが一念発起し、魔の者と手を組んだらしい。
橋渡しとなったのはビクトルで、俺たちがミカルの屋敷から連れ出され、何をされかけたのかということを目の当たりにしたことで今の協会を潰したいと心底望んだそうだ。
彼が先頭に立ち、クウェルク様と足並みを揃えて戦い続け──ようやく決着がついた。
もう俺たちに追手がかかることはない。自由に外を歩き、行きたい所に行ける。
肩の荷が下りたような安堵感に息をついていると、ミカルが俺の顔を覗き込んできた。
「どうしますか? もっと住みやすい所に引っ越すこともできますが……」
「……いや、俺は今のままでいい。人に戻れたとはいえ、もう人の世で生きたいとは思わん。俺はここが好きだ」
「そうですか。私も同感です。町での生活も華やかな娯楽も、未練はまったくありませんし。私にとってはカナイとの時間が何よりも心地良くて、魅力的で、かけがえのないものですから」
……三年も経っているのに、どうやら未だに飽きていないらし。
半ば呆れつつ、俺も同じようなものかと思い、小さく吹き出した。
「ならば後で俺の時間をやろう。どうしたい?」
「私に身を委ねればどうなるか、分かっているくせに」
俺の黒髪に口付けてミカルが笑い返す。
しっくりと馴染んでしまった俺たちのやり取りを、俺の肩で鳩はじっと見つめ続けるばかりだった。
しばらくして、ミカルが俺から離れて足を家に向けた。
「待っていて下さい。今、用意しておいた物を渡しますから」
鳩にそう言いながらミカルは家の中へと消えていく。
その間、俺はクウェルク様の手紙の続きに目を通す。
戦いが終わった後の話題に触れている中、俺はそこに書かれている文字に目が釘付けになった。
『ミカルよ、ヒューゴから伝言だ。約束を違えなかったことに感謝する、だそうだ。今回の話はお前たち二人が、カナイの苦しみを取り除きたいというところから始まった――』
俺の苦しみに気づいたミカルは、それを取り除くための方法を協会が所有する膨大な文献を調べ、その方法見つけ出したことは話に聞いている。
まさか俺の知らないところでヒューゴに接近し、交渉を重ねていたとは思わなかった。
どれだけ紆余曲折があったかは分からないが、協力し合えたという事実。
……それはヒューゴも俺の苦しみに気づいていたことを物語る。
生真面目なヒューゴのことだ。気づいていても何もできない自分に苦しんでいたのだろう。だから俺をミカルに委ねる覚悟をしたのだ。心を通わすということは、もう俺の心がヒューゴに向かないことだと分かっていても。
俺がミカルに捕らわれたのは予定されたことだったのか。
自分だけが何も知らされなったのかと思うと、なかなかに複雑だ。
だが、俺の預かり知らぬ所での動きに俺は救われた。
目頭を熱くしていると、気遣うように鳩が俺の頬に顔をすり寄せ、労わってくれた。
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