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第11話 越えられない一線
陽一郎はベッドボードからティッシュを取り、自分で汚れた部分を拭いていく。
体力の差が表れているのか、さほど息も上がっていない様子だ。しかし、その陰茎からは精液の残滓がこぼれ落ち、しっかりと達していることが分かる。
「はぁ、はぁ……っ!」
「友渕さん……♡」
未だに荒くなった息が落ち着かない友渕の頬を、陽一郎がそっと撫でた。暖かく大きな手のひらで触れられ、友渕の胸が高鳴る。
慈しむような陽一郎の表情は、包容力のある男性そのものだ。体力は限界なはずなのに、友渕の気持ちは昂り、欲がまた復活してしまいそうになる。
──太ももだけじゃ足りない! ヒクヒクしてたケツマンにちんぽハメて、陽一郎くんが気持ちよくなってるところが見たい!! 陽一郎くんとセックスしたい!! ……でも『ただのファン』でしかない俺に、そんなこと言う資格はない。
陽一郎自身が男に抱かれることを望んでいるとあれば、抱きたいと思わずにはいられない。
だが、これ以上欲望のままに手を出していいはずがないと、友渕は自分の気持ちを伝えることができない。アイドルとファンには、越えられない一線がある。
「っ……、汚しちゃって、ごめんね」
「友渕さん……?」
煩悩に流されないために、友渕は唇を噛み締める。様子がガラリと変わった友渕に、陽一郎は戸惑いを隠せない。
「ご、ごめん陽一郎くん。こんなことさせちゃって……」
「いや、元々は俺が……」
「ファンサービスで、こんな……ダメだ」
このようなことを自分以外のファンにはしてほしくないという、独占欲からから出た言葉であった。
しかし、友渕のこの言葉の真意は、陽一郎に正しく伝わらなかった。
「ファンサービス……。あー……はは、そうですよね」
「陽一郎くん……?」
先ほどまでとは違い、重苦しい空気が二人の間を流れる。
友渕はこの気まずい空気をなんとかしたいと思うが、言葉が出てこない。そんな友渕の様子に、表情を歪ませた陽一郎は立ち上がり、手早く身だしなみを整える。
「ごめんなさい、今日は帰ります」
「え……!?」
「また劇場来てくださいね。友渕さんは俺にとって……『大切なファン』ですから」
陽一郎は、眉を下げ無理に笑みを繕っているような表情を見せる。その声は震えていて、友渕は陽一郎のこんな声を一度も聞いたことがなかった。
「陽一郎くん!!」
部屋を出ていく陽一郎を、友渕は必死で呼び止める。しかし部屋のドアは、虚しく閉じてしまった。
「ううっ……、うう……俺バカだ、陽一郎くんにあんな顔させて……」
友渕は残された部屋で一人、涙が止まらなかった。
陽一郎が単なるファンサービスで、あのようなことをするだろうか。もしかすると陽一郎は、その一線を越えようとしてくれたのではないか。
よく考えなくても、答えはそうだとしか思えない。
友渕は初めこそ、陽一郎がアイドルとして輝いている姿を、純粋な気持ちで応援していた。
しかしその気持ちは、厚海陽一郎という一人の人間に対して、恋心を抱くものに変化していった。欲のままに繋がりたいと思っていたし、陽一郎の淫靡な姿をオカズに何度も自分を慰めた。
それにもかかわらず、妙な罪悪感に苛まれた友渕は、陽一郎から差し出された手を取ることができなかった。
夢のようなことが現実になると思った瞬間、怖気づいてしまったのだ。自分が臆病だったせいで、陽一郎を傷つけてしまった。
「陽一郎くん、ごめん……! うう、ううう〜〜!!」
それでも陽一郎への想いは消えるどころか、ますます大きくなってしまうのであった。
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