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目標は立派なコネ作り。
金持ちどもに近づいて、ガッポガッポが夢である。
でも、どうしたらお近づきになれるのか。
親衛隊は嫌われている。
部活はそもそも金持ち連中は入らない。
委員会には派閥があるから、近づける人間が限られてくる為却下。
じゃあ、どうすればいいのか?
正解は…。
「委員長、これ数学のプリント。遅れてごめん。」
「大丈夫だよ。気にしないで。」
さっさと出せよ、グズが。
正解はクラス委員長だ。
俺の使命はこのお金持ち学校で、いいとこのお坊ちゃんと仲良くなり家を復興させること。
表には出ていないが、クズ父親のせいで業績悪化している我が家を立て直すには支援が必要。大物になりそうな生徒に近寄り、お友達になることが何よりも大切なのだ。
あの手この手で御坊ちゃま方と仲良くなる。
本来なら生徒会を目指したいところだったが顔面と金が物を言わす学園。顔面はまま良いが、金は無いから立候補は難しかった。
仕方ないので誰にでも優しい委員長を目指した。委員長ならクラスのなかでも選りすぐりの金持ちとも仲良くなれる。
さっき俺にプリント渡してきたクズも有名な貿易会社を営む社長の息子。
しゃーねー。許してやる。
俺はコツコツと信頼を得ているのだ。
行く行くはあの堅物と有名な日本でもトップクラス、いや世界にも名だたるIT企業の一人息子で現生徒会長である会長とも接点を持ちたい。
いや、必ず持つ。
その目標は高校卒業までにと思っていたがすぐに叶うことになる。
転校生。
それも破天荒。
身なりは汚い汚物のような格好。
はじめ挨拶したときにまじで俺に触るなと言ってしまいそうになった。だが、皆を代表する優等生はそんなことは言わない。笑って誤魔化した。
だが、驚きなのはその後。
その汚物は生徒会と仲良くなっていったのだ。
後ろ盾が大したことないと思い放置していたが、ここは何としてでも接点を持つことが重要だ。
ふむ、どうしたものか。
手で口を覆いながら考える。ふと目線を上げるとそこには親衛隊に囲まれた転校生がいた。
「これだな。」
これなら転校生と自然と仲良くなれるきっかけとなる。
「ふふっ。」
おっといけない。
笑っていたら怪しまれる。
口角を下げ、焦ったように駆け出す。そして、転校生がいた教室に飛び込んだ。
「な、何をしてるんですか!ふ、風紀を呼びましたから大人しくしていなさい。」
転校生は親衛隊数名に殴る蹴るなどの暴行を受けていた。虚ろな目でこちらを見る転校生にキモイから見るなと言いそうになるのを我慢して、キッと親衛隊を睨みつける。
親衛隊は自分達が立たされている状況を認識し、顔を真っ青にしながら出ていった。
「大丈夫?怪我は…しているよね。」
「お前、委員長の。」
「うん、ごめんね。間に合わなくて。保健室に行こう。」
「風紀って…。」
「ごめん、つい咄嗟に。ああっ、勿論あとで報告するから。」
「いやっ、しないでくれ。あいつらに心配かけさせたくない。」
あいつらって生徒会のこと。
どうやら本当の愛されているようだ。
こいつと仲良くなれば、生徒会と仲良くなれる。もしかすると、こいつを守ることで生徒会からの報酬が貰えるかも。そしたら、あのクズのせいで傾いた会社をこの俺が立て直せる。
「保健室には行こう。菌が入ったらいけない。」
「うん。」
「…いつからあんな目に?」
「1週間前から。別に大したことはされてないんだけど。」
「ごめんっ。僕はクラス委員長なのに…。大事なクラスの生徒が制裁にあっているのに気付かなかった。僕はダメな委員長だ。」
「そんなことないっ。今だって俺を助けてくれた。それに、嬉しかった。」
へにゃりと笑う目の前の汚物。生徒会の奴らが好きになる理由なんとなく分かるな…。なんてことは思わず、汚物がいくら笑ったところで汚物は汚物だなと思った。
さて、汚物と仲良くなって1週間。
初めはクラスで話しかけることから始まり、移動教室を共に、体育ではタッグを組んで体操した。
そしてついに、昼食を共にする。
これは大進歩だ。
なぜかって?
この汚物というもの、生徒会と毎回昼食をとっていたからだ。
それを俺が横から掻っ攫った。つまり、生徒会は今日俺を認識することになる。初めは生徒会に喧嘩を売ることになるがまぁいいだろう。世の中には順序というものがある。信頼を勝ち取るためには時に自分を悪にしなければならない。
「それなんだ?」
「これ?天ぷら蕎麦だよ。僕、蕎麦が好きなんだ。」
俺の天ぷら見てもやらねぇぞ。
俺は生徒会連中とは違ってあげるなんて言わないからな。
ああ、うめぇ。
そんなこんなで、ご飯中に汚物なんて見たくないので必死に顔を見ないように食べ進めていると、後方からキャーっと高音の叫び声が聞こえた。生徒会のお通りだ。
「恵!なんで私達を置いてこんな場所で昼食をとっているんですか!」
キーキーと煩いのは副会長。俺はこいつを眼鏡猿と心の中で呼んでいる。だが、こやつは超有名な華道の家元の息子。資産家で有名だし、昔からある御家だ。うまく使えば投資もいける。
「「え〜、恵はこの子と食べる為に僕たちを置いて行ったのぉ?」」
この双子は会計で超人気玩具会社…。俺はドッペルゲンガーと呼んでいる。
「俺、恵と、食べたかった…。」
この静かな巨大は書記。大人しそうだからサイ。なんとなく。官僚を多く出している家。仲良くなればいいこと尽くめ。実は2番目に仲良くしときたい相手だ。
そして、最後の怠そうな男は会長。俺のお目当の相手はこいつだ。俺様大魔王と人は呼ぶ。
「誰だ、てめぇ。」
「おいっ、みんな!委員長に悪いだろ!こいつは俺の恩人なんだよ。」
「恩人?恵、きっと恩人なんて言って恵をいいように食おうって算段ですよ!離れた方がいい。」
残念、ハズレだ。
どちらかと言うとお前ら目当だ。
「「もしくは、僕たちに近づこうと思ってるんだよぉ。」」
大当たり。
眼鏡猿より勘はいいな。
ドッペルゲンガー。
「なっ、酷いぞ。こいつは本当にいい奴で…。」
さて、そろそろ俺も反論しようか。まぁ、最悪退学になる可能性もあるが、危険な橋を渡ってこそ、未来に花が咲くってもんだ。
「僕が彼に近づいたのは彼を守る為です。」
どんっと机を叩いて、立ち上がる。生徒会の人間を見上げて、俺は声を張った。
「生徒会の皆様はとても尊敬します。でも、彼と仲良くなるのは僕は反対です。」
「何ですって〜。」
「落ち着け、なぜそう思う。」
そうだ。眼鏡猿は黙って聞いとけ。
「僕は1週間前彼が制裁にあっているのをこの目で見ました。制裁を行っているのは紛れもなくあなた方の親衛隊です。好きで近寄るのは仕方がありません。しかし、守ることも出来ず、制裁にあっていることにも気付かないあなた方に彼と一緒にいる資格はありません!」
ショックの顔を向ける面々。チラリと汚物を見ると何か言いたげな様子で下を見ていた。
「恵、それは本当ですか?」
「…ああ。」
「なんで、言ってくれない?」
「お前たちに心配かけさせたくなかったんだ。だから、少しくらい俺が痛くてもいいと思って…。」
その後、面倒臭くて意識を飛ばしていた俺に話しかけて来たのは眼鏡猿だった。
「すみません。あなたは恵を守ってくれていたんですね。失礼な態度をとりました。」
ああ、許してやるから慰謝料くれ。
「ただ、恵に手を出したらどうなるか分かっていますね?」
「そんな…。僕はただ、クラス委員長として彼を守っていただけ。クラスメイトがいじめに遭うなんて委員長として許せませんし。まぁ、クラスメイトでなくてもいじめは最低で、許せるものではありませんが。」
まぁ、汚物がどうなろうがどうでもいいけど。ああ、どっかの虐められている資産家を助けてガッポリ儲けたいものだ。
「本当ですね。…折り入って頼みがあります。授業中は私達は恵を見守ることはできません。どうかあなたの力を貸して欲しい。」
力ならいくらでも貸すから金をくれ。あと俺の家に投資してくれ。
「当たり前です。任せてください。」
「ありがとうございます。では…。」
お礼の品を楽しみにしているぞ。
そして1年。
俺の家に投資する人が現れたと言う。
勿論、俺のおかげだ。これで、もう少しで家は軌道に乗る。この俺が継ぐからには完璧に家の状態を仕上げとかなければ。
「ふっふっふ、あと少し…。あと少しだ…。」
「何があと少しなんだ?」
びくっと肩が上がる。気配なく背後に現れたのは会長だった。あとはこいつの家が投資してくれるだけで…。
「いや、日誌を書き終えるのがあともう少しという意味で…。」
「文月清一。文月家の跡取り息子。成績優秀で品行方正。生徒からにも教師からにも支持される人柄。」
「なんですか?それ。」
俺のプロフィールか?
「中学時代は10人もいた立候補者を全て蹴散らし生徒会長を務めていた。」
「そんな、蹴散らすだなんて。」
「因みに、金が何よりも好き。文月家の業績が悪化した際には父親を殴り飛ばした。全治1ヶ月の大怪我を負わせたものの表に出る事はなかった。」
「なっ…。」
「その後、高校に入学。特に仲良くしていたのは業績が年々アップしている企業の息子。官僚の息子。そして、恵。いずれも今後日本を背負って立つ者かそれに通じる者ばかり。随分とまぁ、腹黒だな。文月清一。」
お、お、落ち着け。まず、なんの根拠もないことだ。しらばっくれても何ら問題ないはず。そもそもこいつは何のためにそんな情報を話したんだ。
恵から離れろってことか?
それとも恵を俺のものにしたいから言うこと聞け的な?
待て待て、落ち着け。
どうするべきだ。
考えろ考えろ。
「た、確かに文月家は業績が悪化を辿っていましたけど、実の父を殴るなんてことは…。」
ああ、普通に容赦なく殴ったけど。ボコボコにしたけど。あのクズは変な投資をはじめ、訳の分からないモノを大量生産し、挙句会社の方向性を勝手に変えやがった。
まじで許さん。
あの父親が継ぐまではそこそこの大企業だったのに。あいつのせいで俺は金に埋もれながら生きていく夢を諦めなければならないところだったんだ。
「父親から言質はとってある。」
クソ親父め。
ほんっとクズ。
「父は昔から虚言癖で…。」
「お前の母にも言質はとっているが?」
くそばばぁ!まさか金を握らされたな。あの銭ババは金に弱い。
「ははっ、そんな僕が殴るなんてことするような人間に見えますか?」
「では、これでどうだ?」
「は?」
取り出したのはレコーダー。
何かすごく嫌な予感が…。
『…くそっ、めんどくせぇ。なんだよ、あの汚物。ああ、さっさと卒業してぇ。眼鏡猿にドッペルゲンガーとサイの家からは投資はしてもらったけど、俺のこの心労じゃ元は取れてねぇんだよな。やっぱりあの俺様大魔王からもなんとか投資してもらわないとな。でも、投資だけじゃやっぱり気が済まない。適当に汚物を庇って慰謝料ブン取るのもいいな。』
それは、家に帰った時の俺の愚痴…。
「そのレコーダーは…。」
「お前の母親は頼めばなんでもしてくれるらしい。」
銭ババぁぁぁぁ!
何やってくれてんだよ。
「俺様大魔王とは俺のことか?」
どう考えてもお前のことだよ、ばーか!
「こ、声が違う気がしませんか?僕がそんなこと言うわけないでしょ?」
「監視カメラの映像もあるが、見るか?」
「何が目的なんだ。」
「ほう…素がそれか?」
「うるせぇ。俺に何をさせたい。」
「そうだな。俺はお前がほしい。」
「は?」
「報酬は出す。お前が文月に継ぐよりも多くのな。俺はお前のような優秀な右腕が欲しかったんでな。」
俺の中で巡る計算式。文月よりも多くの報酬か、文月を意地でも継ぐか。
よく考えろ。今の会長の会社なら業績悪化になる可能性は低い。それもこの目の前にいる人物というモノ、天才と謳われている。きっとさらに会社を発展させていくに違いない。文月はというと、今なおギリギリの状態。俺が継いだとしても、文月が大きくなるのはきっとまだまだ先。目先のもので判断してはならない。だが、どう考えても…。
「ちなみに、お前が文月を継ぐというなら致し方ない。茨の道を突き進むといい。」
「分かった。会長の元へ行こう。」
***
という訳で、会長、七瀬冬也の元に行き早10年。
若かった俺もついに27歳になろうとしていた。秘書として働いているがだいぶ儲けさせてもらっている。
因みに文月は弟が継いだ。
普通に業績は安定している。
あの生徒会の連中は全員家を継いでいる。たまに冬也の家で集まってワイワイ騒いでいる。あの汚物も含め。
ああ、汚物は汚れを取ったら大層綺麗になった。
誰と付き合っているのか知らないが、冬也はどうにも最初から興味はなかったらしい。俺という最高の右腕を見つけられただけでも感謝はしているらしい。
俺も金儲けできてるから感謝している。
ただ、問題として結婚できない。
忙しすぎてというか、冬也の側から離れられなくて。
休みを貰えてもなんだかんだ言って冬也と一緒にいるし。
そろそろ結婚したい。
いいお見合い冬也に言ったらセッティングしてもらえるだろうか。
相談してみよ。
そして、その夜。
俺の処女は消えてなくなった。
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