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第38話
「もっと……っ、噛んで……」
「……それは、駄目だ」
キスマークをつけることすら躊躇う男だ。噛み痕を怪我に分類していたとしても不思議じゃない。
「それに……このままでも、十分気持ちいいだろう」
「んぁ……あぁっ」
抱きしめられたまま押し倒され、シーツに沈む。その時に脚の間をゆっくりとまさぐられた。既に何回も達したそこは、ひどく濡れている。先ほども、肩を吸われている内にイってしまった。それなのに、まだ性器は震えながら勃ちあがったままだ。
「んん、ふ、ぅ……っ」
ゆっくりと性器を片手でくすぐられながら、もう片手で愛撫をされる。首、肩、鎖骨から、やがて指は胸の先へと振れた。
「あぁっ、あ……っ」
最初はくすぐったいような感覚だったものが、こねるように触れられ、弾かれたりしていく内に、痺れるほどの快楽に変わり腰が揺れる。いつの間にか、乳首は誘うように赤くぷっくりと膨らんでいた。
「は、あぁっ……」
誘われたのは唇だ。食まれ、舌の上で転がされる。おまけに無い胸を揉まれ、気づいたら彼の頭を抱き寄せて、また射精していた。
「吸われるのが、気持ちいいのか……?」
「んっ、わかんな……ぁっ……」
気持ちいいところをすべて擦るなんて、ひとりでする処理ではできず、したこともなかった。素直ではない返答を、そのまま受け取ったのか、彼は擦っていた手を止めてしまう。
「……き、きもちい、から……っ、ぜんぶ、触ってほしい……」
真っ赤になりながら、まだ触れられていない後ろへと、彼の手を掴んで持っていく。
「……ここに、指を挿れればいいのか?」
「うん……っ、さっき、俺がしたみたいに……」
垂れた精液と分泌された愛液で、そこは既に柔らかくとろけていた。指でそっと入り口を撫でただけで、無抵抗な内壁は、もっとほしいと収縮して指をのみこんでいく。
「キツくて……柔らかい……不思議だ」
やがて指は一本から二本に増え、まさぐる箇所が広がると、秘部に触れた。
「ああああんっ」
今までとは比べ物にならないほど強い快楽が全身を駆け抜け、身体がびくびくと震える。そして、ずっと甘い震えは引かず、疼きとなって全身に広がっていく。
「ここが気持ちいいのか?」
「うんっ……うんっ、きもち、いぃ……」
自分の指では、決して届かなかった場所。経験が無いと言っていたはずの彼は、コツを掴んだようで、的確に気持ちいいところだけを刺激する。
その時、彼の中にあったのは、人並みの性的好奇心なのか。それとも、アンリの乱れている姿をもっと見たいと考えたのか。
「やっ……だめ……っ、そんな、ぜんぶ、しちゃ……っ」
赤く色づき、膨らんだ胸の粒を口唇で優しく食みながら、内壁の奥を指でぐっと押される。
「ああっ、あっ、あぁああっ」
達しているのは分かる。しかし、いつものイき方とはどう考えても違うものだった。普段なら、昂りのぼりつめた後、快楽は緩やかに下降し、身体は弛緩していくものだった。しかし今はびくびくと震えるばかりで、張りつめた快楽の糸はどうしても緩まない。もっとと縋りつくように、内奥が彼の指にきゅうきゅうと絡みつく。
「……まだ、足りない」
彼も同じ気持ちだったのか、ぼそりと呟いた。こちらを見つめる目は、決して逃がさないと言っているようだ。強い獣のような瞳――アルファの瞳だった。
「……もっと触ってもいいだろうか」
これ以上触れられ続けたら、身体がとろとろに溶かされてしまう気がした。しかし、触れられなければ、引かない快楽がいつまでも身体を苛み続けるだろう。
アンリは、小さくこくりと頷いた。
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