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第11話 異形頭

「わー、ついたついた」 「……私の体で……遊ぶな、……グロリオサ。玩具ではない」  鳥籠の中で、言葉を話す鳥がたどたどしく話し出した。どうやら巧く融合できたようだ。高い声は、元々のネモフィラの声とは随分差がある。 「お仕置きだよ。アサトにヤラれたの? ネモの中にアサトようこそしちゃった?」 「──飛躍するな。馬鹿馬鹿しい」 「だって剥かれてたからさあ。無防備で可憐なネモが転がってたら、グロリオサだったらがっつりイタズラするよ? ネモの乳首は感度いいから、もう乳首だけでもイケるんじゃない?」 「……乳首を連呼するな」  ネモフィラは嫌そうに沈黙したが、やはり表情が見えないので何を思ったのかはわからない。間を置いて次に出た言葉は、忌々しく吐き捨てるようなクレームだった。 「──こんな無機物と有機物のハイブリッドをくっけられた、私の気持ちを考えてもみろ」 「だからあ、気に入らなかったら自分でなんか見繕ってくれる? グロリオサは助けに来てあげたんだよ」  可愛らしく恩を着せてくるグロリオサは、首を落とされる前のネモフィラや、冷蔵庫の中で冷たくなっていたDに、非常に容姿が似通っている。それでも性格が表情に出るのか、ベースが同じでも幾分違いが出ている。どの道美しい外見であることに変わりはない。 「大体なんでこんな小さな鳥」 「サイズ合わせの鳥籠だよ。大きい鳥手近にいなかったんだもんねー。文句言わないでよ」 「しかしまあ……こんなことが出来るとは驚きだな」 「楽しいからいろんな頭に付け替えてみたいな。グロリオサは前にそういうのを見たよ! 時計とか、電球とか、カメラとかさー、異形頭(いぎょうとう)っていうんだ。ダースくらい異形頭の集まり作ってさ、遊ばない?」  無邪気におかしな提案をするグロリオサに、ネモフィラは数秒呆れたように沈黙した。 「……それよりも。久々にデルフィニウムの気配を感じたのでここに来たら、見事に出くわしたわけだが」 「あー、デルいたの? しばらくなりを潜めてたけど、今までなんでわかんなかったんだろうね」 「単眼の人形頭(ドールヘッド)だ。地下にでもいたんだろうが、昨日から急に匂いが強くなった」 「グロリオサにとってはどうでもいいけど。ネモはデルのこと好きだったもんね」 「普通だ」  ネモフィラはグロリオサが持ってきた荷物の中から服を取り出して着始めていたが、着る際に鳥籠の金具が引っ掛かった。 「……ああ、くそ。距離感が掴めないな。──アサトにはデルフィニウムを知っているか聞かれたが、自分のすぐ傍にいることに気づいていないようだった。馬鹿じゃなかろうか」 「それは仕方ないんじゃない? 顔が同じだから。デルが名乗らなかったなら気づけないでしょ」 「ただ……デルフィニウムも私をわからないみたいだった」 「頭飛ばされて巧く記憶が再現出来なかったんじゃない?」 「……ちょっと着替えを手伝ってくれ」  着替えに手間取っているネモフィラは、苛立たしげに呟いた。 「デルの頭、あれは良いね。目も口もついてて、ぱっと見人間ぽい。美的センスには欠けるけど」 「一つ目だしな」 「グロリオサも何かやってみたい! ネモ、首を落としてくれる?」 「やめておけ。痛いぞ」  平気な顔で首を落とされていたが、やはり痛みは伴うようだ。グロリオサは頬を膨らませ不満げな表情を浮かべたが、すぐに前言撤回した。 「まあいいかあ……もうネモの元の顔を見られないなら、この顔で我慢しよう」  ぺたりと自分の綺麗な顔に触れ、グロリオサは目を瞑った。 「もうネモの唇にキス出来ない。もうネモの瞳でグロリオサを見てもらうことは出来ない。どうして首を落とされた?」 「デルフィニウムを見てたら、なんとなくだ。頭をすげ替えるとどうなるのか興味があった」 「ネモは被虐趣味があるね。痛いのに」 「グロリオサには加虐趣味があるからいいのでは?」  淡々と返され、グロリオサは口の端を曲げたが、服を着たネモフィラの体をぎゅっと抱き締めた。 「──ネモフィラが戻れて良かった。どんな頭でも、ネモはグロリオサのネモだ。大好きだよ」  ふざけているようにしか見えないグロリオサだったが、根底には愛情が存在した。ネモフィラもそれを知っているので、一緒にいるのだ。

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