1 / 1

1

いつからか、あの大きな背中を自然と目で追うようになった。あの背中が視界に入ると、酷い安堵を覚えた。 最終再臨を果たした彼の身体は、全身に大きくて鋭利な(とげ)を纏っている。 触りたい。 その欲求は、目に見えて大きく、胸のうちで育っていった。 触れればスパッと両断されてしまいそうなその(とげ)を、目線が合えば霊基を調節してしまってくれる関係になったのは、つい1月ほど前。 確かな感情を覚えた立香は、想いが限界まで募らないうちに玉砕されて諦めよう、とある晩オルタ自室にを呼び出した。 律儀にも指定した時間に遅れることなく、むしろ早く立香のマイルームへと姿を現したオルタに、全身を覆うあの(とげ)はなかった。 寝るところだったかな、もしかして自分の部屋にくるからかな、と1人妄想を膨らませて嬉しくなっていた立香へ、現実へ呼び戻さんばかりの低く、抑揚のない声音が届く。 「話とはなんだ」 オルタが部屋へ来たらさっさと()ってしまって、とっとと砕けよう。 そう心に決めていたのに。いざオルタを目の前にし、自分は今から好きな人からフラれるんだ、と思うと、なかなか口が開いてくれなかった。 「おい、聞いてるのか」 「あ! あの、ね…オルタ。話が……あって、ね」 どうしても顔を見て言う勇気がなかったので、俯きながら想いを伝えることにした。 ここまで言って、チラリとオルタの表情を伺う。 その顔に、特に変わった色は見られない。強いて言うならば、告白の現場には似合わないような、「早くしてくれ」という苛立ちにも似た表情。それを見てさらに言いづらくなるが、頑張って言葉を紡ぐ。 「…だから、なんだ」 「…~~っ、あのね! オルタが……その、えと…っす、好きなのっ!」 若干被せ気味に言ってしまったそれは、言い終えてしまえば酷くあっけないものだった。 顔が、とてもあつい。触ってはいないが、わかる。絶対にゆでダコだ。 「…はぁ」 暫くの沈黙の後、聞こえてきたのは拒絶の返事でもなく、到底あり得ないだろうが、受け入れてくれるような返事でもなく。 1つの溜め息だった。 予想外の反応に、立香の思考がフル稼働を始める。 え、え、なんで溜め息?! …そんなに嫌だったかな?? ……そりゃそうか。綺麗でかわいい女の子ならともかく、僕みたいな男じゃね……がっかりもするか…。そもそも、この部屋に呼ばれたのが嫌だったかな、めんどくさかった…よね……。 とにかく、オルタの反応を視てしまった立香から溢れてくるのは負の感情ばかり。 だから、「これからオルタとの関係大丈夫かな…。もしこれに嫌気がさして自分から霊基返還したいとか言い出したらどうしよう」など、つらつらとこれからの事を考えていた立香にとって、オルタのとった行動は不意以外、なにものでもなかった。 「お前、ふざけるなよ」 (あぁ、そっか。まず罵倒されるのか…) そういって、オルタは立香の肩を軽く押し、立香の後方にあったベッドへと押し倒した。立香が「へ?」と困惑している隙に、オルタが立香へと覆い被さる。 立香の顔の両脇にはオルタのしなやかに筋肉のつく腕。動けない、逃げられない。 「え、えと…オルタさん……??」 「お前、そんなことを言って俺を試しているのか? いくらなんでも悪ふざけが過ぎる」 この言葉に、立香は頭に血が上った。 「ふざけてない、僕は真剣だよ!! オルタがす……んっ」 オルタが好き。 そう言いたかったのに、立香の唇はそれを紡ぐことはなかった。 今、自分の唇に触れているのは? え、どうしてオルタの顔がこんなに近くにあるの? 沸いてでる疑問はすぐに解決できなくて、 まさかオルタの唇が自分のそれに、触れた、なんて。 「…へ、ぇ?」 「なんだ、嫌だったのか」 もう、なにがなんだか。 だって、どうして。何か言おうとしても、頭に浮かぶ言葉はそんな同じようなものばかり。 「嫌……な、わけ…っ」 「じゃあいいだろう。俺だってそこまで忍耐続く訳じゃあないんでね、部屋に呼んだってことは、そーゆーこったろ?」 微妙に口角を吊り上げて笑う姿に、クラクラするような感覚を覚える。 身体と頭に熱が集まりすぎて、もうオルタのことしか考えられない。 「おい、……リツカ?」 「……っ!!」 呆然としているところに、耳元で名を呼ばれたら、もう。 たまらない、なんて、生ぬるいくらいに。 「か…、かっこ……いぃ……」 「……明日立てなくても文句言うなよ…」 「す、好きにして…ぇ…」 最中、激しく突かれて訳がわからなくなっている時。 ベッドの軋む音に紛れて「好きだ」なんて囁かれてしまっては、骨抜きにされてしまうのは当たり前。

ともだちにシェアしよう!