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第34話

「な…にを……。」  眉を寄せて一総は理一に言う。 「すごいっすね。この状況でまだ自分の意思で話せるなんて。」  理一は少しだけ驚いている様子だった。 「でも、それじゃあ意味が無いので。」  理一の瞳の色が一層紅を帯びる。  眉を寄せていた一総の表情は緩やかに弛緩し、瞳は虚ろになる。 「これが俺の能力です。 嘘をつかれるのが嫌だったので、嘘をつけない様にしました。」  理一の手が一総の髪をなでる。  相変わらず一総は動けないようだった。  事実、一総は理一の支配下にあった。目の前のものを完全に屈服させる能力が理一の奥の手だった。  力が強いだけならば数でどうとでもなる。  九十九が御仁の中で特別視されているのはこの能力を持っているからという部分が大きい。 「何で、俺だったんですか?」  一総は今は嘘は付けない。 「何でだろうな、好きだからだ。」  ぼんやりとしたまま一総は答える。 「お前ほど綺麗な生き物はいないと思ったんだ。」  何だ、何だ、何だ。これは何だ。  一総を支配下に置けば、彼の魂胆なり、下心なりが分かると思った。  それを知れば、少なくとも理一は楽にはなれると思っていたのだ。  けれど、一総がもらしたのは単なる先程と変わらない愛の告白そのもので理一は混乱する。  そんな無償の愛のようなものを渡される様な存在ではなかった。 「本当に花島を辞めるんですか?」 「お前と共に生きられるなら。」  返ってきた言葉に迷いは無かった。  取り繕えない様にはしているので本当のことだとわかる。 「じゃあ、俺のこといつか殺してくれますか?」 「なんだ、木戸は死にたかったのか……。」  だからあんなに、つらそうだったのか。ぼんやりとしたまま一総は言う。 「今すぐ、じゃないんだな。 木戸がどうしても我慢ができなくなった時、死なせてやればいいのか?」  一総は理一に手を伸ばそうとして失敗する。  手はまともに動かない。 「俺のこと好きだっていうのに、俺のこと殺せるんですか?」 「木戸が本当にそれを望むのなら。」  まあ、いつかの話なんだろ?事もなげに一総に言われ理一は何度か深呼吸をした。 「じゃあ、俺のことを殺せる力をあげますから、もらってください。」  そう言うと理一の瞳はジワリと濃くなり血の色になる。  そのまま、理一は一総の額に唇を落とす。  一総は胸のあたりが、燃える様に熱く感じた。  それでも一総は意識を保っているようで、理一は驚く。  逆に碌に今まで使ってこなかった能力をフルで使った理一は足元がふらつく。  意識を失えば、支配の術は自動でとける。けれどもう一つの術の説明をしないまま意識を飛ばしてはいけない。  それは分かるのに、ぐらりと世界が暗転して理一は意識を手放した。

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