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第37話

 本当に一総は彼自身の力だけで殺してくれるのだろうか。  理一には計りかねた。  あの後手ひどく抱かれて体がだるい。  そんな風に感じること自体以前は無かったのだ。ほぼ間違いなく契約をした影響なのだろう。  理一はぼんやりとベッドで天井を眺めていると、一総がベッドの淵に腰を掛けて理一の髪の毛を撫でる。  信用して欲しいと言われた。自分とこの一総の関係がよく分からないままだ。  恋人ではない。信用のならない友人なんて多分友人でもない。  所謂セフレというやつなことは自分でも分かっていた。  それで相手が自分をどう思っているのか聞き出したくて無茶もした。  なのに、返ってきたものが信用して欲しいという最低限のもので、理一は戸惑っていた。  しかも契約を結んだ時信頼してくれてありがとうと言っていた、それを直後ぶち壊しにしたのは理一自身なのだろう。  これ以上考えても仕方が無い気がして、理一は気持ちを切り替える様に一総に話しかけた。 「そう言えばその印……。」  生活こまりますか?と尋ねると一総はまさかと笑う。 「ああ。別に問題はない。 誰にも見せるなというならその通りにするし、見せていいのであれば淫紋とでも言っておけば充分だろう。」 「淫紋って……。」  なんすかそれ、と理一が訝し気に聞くと一総はニヤリと笑う。 「お前本当に疎いよな。 エロ本とか読まないのか?」 「はあ、まあ。」 「淫紋っていうのはまあ、性的な意味での紋章だ。そういう異能もいるらしいが精を吸うと色づくとか性奴隷に紋章が浮かぶとかそういったフィクションがあるんだよ。」 「へえ。」  あまり興味が無かった理一は生返事を返す。  兎に角、一総本人が問題ないと言っているのだから大丈夫なのだろう。 「御仁には見せないでください。後はどちらでもいいです。」  あまりにも普通に話ができていて理一としては拍子抜けした。  怒っている様に見えたのだ。だから、と思ったが何もない。突き放されることも無い。  ぬるま湯の様だと理一は思った。  セックスの時に見せる顔も、告白の時された表情も今は全く見えない。  ごく普通の人間に対するものの話し方が嬉しい。 「自分自身について化け物だと思う事は棚上げにした方がいいぞ。」  何もかもを見透かしたように一総が言う。 「――同じ化け物からの忠告だ。」  理一が何かを返す前に一総が言う。 「別に……。」  アンタは化け物じゃないだろう。理一はそう言おうとしたのに上手く言葉にできない。  一総の事を何も知らないのだと愕然とした。  そのまま、理一はなにも言えぬまま、口をニ、三度戦慄かせそれから諦めた様に息を吐いて目を閉じた。  それっきり、その日は一総もそのことについては何も話さなかった。

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