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第1話
「一之瀬 春秋(いちのせひととせ)話がある!」
お昼休み春秋がクラスメイトと弁当を食べていると突然怒鳴り声に近い声で話かけられる。
見上げたところにいる人物は知ってはいる。
ただ、同じ学校の生徒であることと柔道部の部長をしていることを知っているだけでそれ以外は何も知らないのに等しい。
友人でも何でもない人間に話しかけられ思わずぼんやりと見上げてしまった人物は、確か珍しい苗字をしていた筈だ。
何故その人物が自分をわざわざ指名して話しかけてくるのか、思い当る節はまるで無かった。
日焼けしやすい体質なのだろうか少し日焼けした肌とがっしりとした体躯。
制服からのぞく首も筋張っていて、全身に筋肉がのっているのが分かる体だ。
「何? 委員会とか一緒だったっけ?」
俺が聞くと、少し目の前の男の顔が赤くなった気がした。
「いや、違う。」
「なら、何の用です?」
特に接点が見当たらない。
話かけられるような理由も思い当たらなかった。
「ど、どどど。」
「ど?」
「ど、百目鬼 信夫(どうめきしのぶ)。」
ああ、そうだ。そんな名前だった気がする。
「一之瀬!付き合ってください。勿論肉体関係込みで!」
「は?」
「具体的には、アナ○をとろとろに解して『もう我慢できない』という一之瀬を押し倒した俺は――。」
「おい!」
何を言ってるんだこいつは。
頭でもわいているのだろうか。
そもそもこれは告白というやつなのか?
もっと告白ってやつはこう、真摯なものじゃないのか?
それともなんなんだ。告白じゃないならなんだ?嫌がらせか?
横で口に入っていたものを吹き出した友人にティッシュを渡して思わず辺りを見回す。
あまりの発言に皆一様にぎょっとした顔をしていた。
しかし、チラリとみた教室の入り口には柔道部員だろうか比較的体格のいい人間が折り重なるように六人ほどがこちらを見ている。
そういうことかと思った。
はっきり言って、タチが悪い。
なんで自分を選んだのか、なんて良く分かんないけどこれが、罰ゲームなのか単なるいたずらかってことだけはよく分かる。
じゃなきゃこんな風にわざわざ見にこないだろう。
このゲームの成立ルールが何だかは知らないが、人を巻き込まないで欲しい。
「そんなもん、お断りに決まってんだろ。」
俺がそう答えると、一瞬ぐしゃぐしゃでまるで死にそうみたいに顔をゆがめさせた後、妙にほっとした顔を百目鬼は浮かべた。
一体何なんだ。
俺と関わり合いにならないところでそういう罰ゲームじみたことはして欲しい。
ただ、それが罰ゲームで振られた後の表情には見えなくて、妙に印象に残った。
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